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命にもかかわる高齢者の病気 ワクチンでも防げない「誤嚥性肺炎」とは
「肺炎」という病気の感じ方は人それぞれと思います。若い人にとっては「風邪がひどくなった」程度の印象かもしれません。一方、高齢者ならば「命にかかわる病気」と恐れている方も少なくないのではないでしょうか。実は、こうした感じ方はどちらも正しいと言えます。総務省の人口動態調査によると、肺炎は日本人の死亡原因で3番目に多いのですが、肺炎で亡くなる方の実に97%が65歳以上の高齢者なのです。それには、“高齢者特有の肺炎”があることも関連しています。【医療法人社団ときわ大宮在宅クリニック院長・清水章弘/メディカルノートNEWS & JOURNAL】
◇食事中のむせ込みが増えた
80代のAさんは高血圧、脂質異常症といった持病があり、病院に受診していました。しかし、体力の衰えなどもあって徐々に通院するのが難しくなり、2年前からは2週間に1回訪問する在宅医療を開始しています。Aさんのご家族から「最近、食事中にむせ込むことが増えたので、気になっています」との訴えがありました。また、Aさんご本人も「普段も唾液を飲み込むのが大変になってきた」とおっしゃいます。この時は、食事を柔らかくする▽小さく刻む▽食べるときはゆっくりかむ▽1口を少なめにする▽水分にとろみをつける――といった工夫をするなど、食事の注意をお伝えしました。
ところが、残念なことに数カ月後、Aさんに発熱や呼吸困難といった肺炎の症状が出てしまいました。◇「誤」って「嚥」み込んで起こる肺炎
年を取るにつれて、物を飲み込む機能が徐々に低下していきます。最初に自覚するのが、Aさんのケースのように食事中のむせ込みが多くなることです。本人も周囲も「ちょっとむせているだけだから大丈夫」と思いがちですが、そうした認識が実は、危険から目をそらすことにつながっているのです。
冒頭で触れた“高齢者特有の肺炎”は、誤嚥(ごえん)性肺炎といいます。高齢者の肺炎を予防するために肺炎球菌ワクチンが定期接種化(公費助成による接種)されましたが、残念ながらこの誤嚥性肺炎は、ワクチンでは予防できません。
「嚥」という漢字はあまりなじみがないかもしれません。「の(む)」という訓があてられ、「のみくだす」という意味を持ちます。漢字の意味からも、誤嚥性肺炎という言葉を見ると「食べたり飲んだりしたものが気管に入ってしまって肺炎を引き起こす」といった印象が強いと思います。それだけならば、Aさんにお話ししたような食事の工夫によってある程度予防することができます。ところが実際には、横になっているときなどに唾液や胃液が気管に入ってしまうことが原因となることが多いのです。1/3ページ