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健康寿命のカギ「ABC」は冬に悪化 2型糖尿病患者の調査で初確認
【進化する糖尿病治療法】
健康診断や人間ドックは、健康管理のためにぜひとも受けてほしいですが、「1年に1度」という性格上、どうしても限界があります。過去1~2カ月の血糖の平均値を示すヘモグロビンA1c(HbA1c)、血圧、LDLコレステロール(いわゆる悪玉コレステロール)の3つは、季節によって数値が変動するからです。
私たちが糖尿病データマネジメント研究会(JDDM)と共同で行った研究に「ABC Study JDDM49」があります。ABCの「A」はHbA1c、「B」はBlood pressure、つまり血圧、CはLDLコレステロールのことです。これらの数値が、一年の間でどう変動するかを調べたのです。
この研究は、日本国内の診療所から登録された2型糖尿病患者10万4601人のデータから、「2013~14年の24カ月に12回以上通院」「この間にHbA1c、血圧、悪玉コレステロールを測定していた」に該当する4678人のデータを抽出しました。
そして、4678人がどれくらいHbA1c7%未満、血圧130/80㎜Hg未満、LDLコレステロール100未満の目標を達成できているかを調べました。
なお、それぞれの数値は、ガイドラインで定められている治療目標値です。
その結果は、いずれの数値も春から夏に近づくにつれ目標値の達成率が上昇し、冬に近づくにつれ達成率が下がるというもの。2年間追った調査でしたが、各月で見ても、HbA1c、血圧、LDLコレステロールいずれも同じような動きをしていました。
では、夏と冬では? 6~8月を「夏」、12~2月を「冬」とし、見比べると、その差は驚くものでした。A、B、Cのすべて、つまりHbA1c、血圧、LDLコレステロールのすべてが目標値を達成しているのは、「夏」は15.6%。そもそもこれも低いですが、さらに「冬」になると、わずか9.6%しかいません。
血圧とLDLコレステロールはそのままで、HbA1cを8%未満に上げて条件を緩くしても、A、B、Cすべてが目標値を達成しているのは「夏」で23.7%、「冬」になるともっと低い15%です。
それぞれひとつずつ見ると、これほどには差がないのです。HbA1cの達成率は夏53.1%、冬48.9%、収縮期血圧(上の血圧)の達成率は夏56.6%、冬40.9%、拡張期血圧(下の血圧)は夏73.4%、冬64.1%、LDLコレステロールは夏50.8%、冬47.2%です。
■3つすべての目標値を達成することが重要
これらの結果をどう考えるか? それは、夏に測定した数値が「悪くない」「基準値以内だけどギリギリ」という状態であれば、冬には基準値を超えている可能性が十分にあるということです。現場でたくさんの患者さんの診察をし、「冬には数値が悪化する人が多い」という印象はありましたが、「夏より冬の方が悪い」とはっきり示したデータはありませんでした。しかし、この「ABCスタディー」で明らかになったのです。
「血圧は高いけど、HbA1cは目標値を達成しているから問題なし」では決してないのです。A、B、Cすべてが目標値を達成していることが非常に重要なのは、いずれかひとつが良くても、ほかの数値が悪ければ、動脈硬化の進行を食い止められないからです。
糖尿病をきちんと治療せずにいると、動脈硬化が進行し、心筋梗塞などの心血管障害、脳卒中などの脳血管障害のリスクが高くなります。そして、血圧、LDLコレステロールも同じ。治療をしないでいると、動脈硬化が進行するのです。脳血管障害は認知症にもつながりますから、A、B、Cのコントロールがきちんとできていないということは、認知症のリスクを上げることにもなります。
健診や人間ドックの結果が手元にある人は、数値はいかがでしょうか? 春~夏にかけての季節に健診を受けている人で、数値がギリギリの人などは、食生活を見直していただいて、冬にもう一度検査することをお勧めします。1年後では遅い場合もありますよ。
(坂本昌也/東京慈恵会医科大学糖尿病・代謝・内分泌内科准教授)