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認知症への理解 地域社会との「共生」を模索 「心地いい」居場所作りを

「共生」の実現のためには地域社会が認知症への理解を深め、病院や福祉施設と連携を図ることが欠かせない。何より大切なのは、当事者や家族にとって「心地いい」居場所を作り上げることではないか。

 ◆認知症カフェ

 竹内弘道さん(75)=東京都目黒区=の自宅には月3回、年齢がさまざまな男女が集まってくる。代表理事を務めるNPO法人「Dカフェネット」が「認知症カフェ」として運営。竹内さんやスタッフは身内の介護経験者だが、介護・福祉のプロではない。

 5月下旬の土曜日には、妻が若年性認知症を患った男性と、母がレビー小体型認知症という男性がそれぞれ相談に訪れていた。

 「家族が認知症になったときの不安は誰にでもあるが、介護も大変なことばかりではない」。アルツハイマー型認知症だった母、伊代さんが98歳で亡くなるまで、面倒を見続けた竹内さんはこう指摘する。

 残りの人生をどう過ごすかを話し合う時間があり、言葉を忘れていく代わりに五感でコミュニケーションをとる…。

 竹内さんは「認知症の人が心地よく過ごせるようにいかに環境を整えるか。その中で新たな発見もある。ここでは課題解決の手伝いをしてあげられるかもしれない」と話す。

 ◆体験語り継ぐ

 土方(ひじかた)明さん(46)=大田区=は軽度の認知障害と診断された母を連れ、平成27年12月から竹内さん宅に通い始めた。音楽教師だった母がピアノを弾き、参加者が歌ってくれたことが思い出に残っている。

 「Dカフェに行った日の母は饒舌(じょうぜつ)だった」。妻の奈々絵さん(47)も笑顔で振り返る。

 母の死から1年余りたったが、土方さん夫妻は竹内さん宅に顔を出し、別の参加者に体験談を語る。「認知症の人も家族もどんな人でも受け入れてくれるのはありがたい。母だけでなく私たちも救われていた。その恩返しをしている」

 ◆多様な人材で

 厚生労働省によると、29年度の調査で、認知症カフェは全国の5863カ所で運営されている。ただ、明確な設置基準がないため、活動内容にばらつきがあり、課題も少なくない。

 28年に実施された実態調査(1477カ所が回答)では、活動内容として、テーマを決めて意見交換する認知症の本人や介護者の「ミーティング」の実施は9%にとどまった。「運営上の課題」には、77%が「認知症の人が集まらない」と回答した。

 「認知症の人と家族の会」東京都支部代表の大野教子さん(68)は「認知症の当事者が疎外感を抱き、本音をさらけ出せないことも多い」と指摘。「充足感を感じながら穏やかな生活を送るにはどうすればいいか。当事者や家族の視点に立った施策を進めてほしい」と訴える。

 Dカフェが特徴的なのは、竹内さんの自宅だけでなく、認知症専門病院や訪問看護センター、居酒屋など計10カ所で定期的に開催されていることだ。

 都立松沢病院認知症疾患医療センター長で、竹内さん宅で落語を披露することもある新里和弘さんは「認知症カフェは多様な人材がいる都会向きな取り組み。地方では行政が手腕を発揮しないといけないかもしれない」と分析。さらに「専門家の医師が地域に気軽に出ていける仕組みができるといい」と提案する。

 ◆ありのままに

 東京都東久留米市で認知症カフェを開く坂本恵司さん(64)には、約3年前に92歳で亡くなった母、美好さんへの強い後悔の念がある。約18年間の介護生活の中で、不用意に責めてしまったことが何度もあったからだ。

 仕事後に様子を見に行くと、「通帳が盗まれた」と実際には起きていないことを訴えてきたり、ガスコンロの火の消し忘れで煙が部屋に充満していたりしたこともあった。

 看取った後、美好さんの日記帳を見つけた。そこには、認知症の症状におびえ、自信を失っていく姿がつづられていた。なぜ、ありのままを受け入れ、寄り添えなかったのか。

 認知症カフェは思い出が詰まった母親の自宅で開く。地域の認知症の高齢者を温かく出迎え、好きな話題でおしゃべりを楽しむ。柔らかな表情を向けてくれる瞬間がうれしい。認知症の人への理解につながればと、専門家を招いた勉強会も定期的に行っている。

 「ささやかだが、ほっとできて自分らしく過ごせる。共生とは、その人のありのままを受け入れることができる社会のことではないか」。坂本さんはこう感じている。