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地域に伝える特養の排せつケア 布製アウターで自立度アップ(福祉新聞)

奈良県五條市の特別養護老人ホーム「まきの苑」(藤井道子苑長)は、排せつリズムに応じたトイレ誘導や尿量に合ったインナー(パッド)と肌に優しい布製アウターを使うことで、利用者の自立度向上や肌トラブル改善を実現している。2013年には、ノウハウを地域住民に伝える排せつケアの情報館「ミニむつき庵」を開設。在宅ケアの向上にも大きな役割を果たしている。

 社会福祉法人正和会が1994年に開所した同苑は定員187人(平均要介護度3・7)の従来型・ユニット型の混合施設。「地域に愛され、あってよかったと思われる施設」を目指し、近隣中学校とキャリア教育推進で連携したり、地域住民向け相談室を365日開いたりしている。

 排せつケア改善に取り組んだのは2007年。チーフマネジャーだった藤井苑長が全国老人福祉施設協議会の介護力向上講習会に参加し、個々の排せつリズムや尿量などに応じた個別ケアの必要性を学んだことがきっかけだった。同苑では当時、インナーの種類も少なく、重ね使いは当たり前。日常的に便薬の投与も行っていた。

 講習会後、介護職員、看護師、リハビリスタッフ、栄養士などの協力を得て排せつケアの見直しが始まった。まず、1日の水分摂取量を確保するために、苑負担で好きな飲み物を朝食後とおやつに飲めるようにした。多くの人が常食を食べられるよう形態を変えずに柔らかくしたり、個々の排せつリズムに合わせトイレ誘導したりするなど自然排便を促す取り組みも始めた。正しい姿勢が保持できるよう車いすを調整機能付きにしたり、食堂のいすとテーブルを個々の利用者が食事しやすい高さに変えたりもした。

 また09年には職員4人と、京都市にある排せつ用具の情報館「むつき庵」が主催するおむつフィッター(OF)3級研修を受講。その人に合った排せつ方法や用具を選べる力を身に付ける大切さを学んだ。OF研修にはその後も職員を参加させ、修了者は16人(1級3人、2級3人、3級11人)に及んでいる。

 ■8種のパッド使い分け

 排せつケアは利用者の入所後1週間、排せつリズムを把握し、尿量を調べることから始まる。測定後は個々の座位能力、排せつリズムなどに合った方法や用具を検討。全介助87人、一部介助76人、自立23人という状況の中、できる限りトイレに誘導し、夜間など誘導が難しい場合にはポータブルトイレを使っている。

 オムツ使用者には、その人の排せつ時間帯ごとの尿量に合ったインナー8種類を使い分ける。メーカーは同様の種類がある数社から合い見積もりを取り、最も価格が安いメーカーを選んでいる。

 排せつケアで特にこだわっているのが、ニシキ(株)の布製アウター「ソ・フィット」を使うことだ。インナーがずれやすく、ズボンをはいたときにかさばり、紙のすれる音がするテープ止めタイプなどと違い、布製アウターは肌に密着しインナーがずれず、通気性も良い。かさばりも少なく、歩きやすさが全く違う。

 排せつケア改善に取り組んで9年。インナーの重ね使いはなくなり、ほぼ全員が布製アウターを使うようになった。尿量に適したインナーと歩きやすい布製アウターを使うことで利用者の肌トラブルは改善し、自立度も大幅に向上。「外出したい」という声も多くなった。

 また、07年に月平均53万円だったインナー代が15年は46万円に減少。取り組み前の06年に比べるとアウターを含むオムツ代が月20万円減るという思わぬ効果もあった。

 こうした排せつケアのノウハウを地域の人に伝えようと、13年10月に玄関脇に開設したのが「ミニむつき庵」だ。庵内にはさまざまなインナーやアウター、ポータブルトイレが展示され、OF資格を持つ職員が相談に応じる。ショートステイやデイサービスの利用者や家族にインナーを紹介したり、当て方を教えたりもする。2カ月に1回開く介護者研修会や地域イベントでも情報を伝えている。

 「個々に合った排せつケアが普通のことになった。今後はミニむつき庵を活用してもっと地域とつながりたい」と話す藤井苑長。「地域に愛される施設」になるには、こうした高い専門性に基づくケアと、そのノウハウを惜しみなく提供する姿勢が必要なのだろう。