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「1本の点滴よりスプーン1杯の食事」 新調理システムを導入した施設の効果は(福祉新聞)

東京や神奈川で6カ所の介護保険施設を運営する龍岡会グループ(大森順方理事長)は、2005年に新調理システムを導入した。オール電化厨房で作り出される料理は、衛生面に優れ、味もおいしいと大評判。朝食の主食や昼食の主菜を利用者が選べるようにするなど食事サービスの質向上やコスト管理に欠かせないシステムになっている。

 医療法人社団として5カ所の老人保健施設と2カ所のグループホーム、社会福祉法人として1カ所の特別養護老人ホームなどを運営する龍岡会。

 1996年に最初の老健施設を開所した時から「食は上薬にして医薬は下薬なり」の理念の下、ふぐ取扱資格を持つ板前を調理師として雇用したり、スチームコンベクションオーブン(スチコン)を導入したりするなど食事に力を入れてきた。

 新調理システム導入のきっかけは、3番目の老健施設新設の際に厨房作業の近代化を考えたこと。

 「将来的に腕の良い調理師の確保は難しくなる」と考えた大森理事長は、新施設の厨房をセントラルキッチン(CK)にし、そこで調理した食事を各施設のサテライトキッチン(SK)に配送するシステムを考えるとともに、HACCPの概念に対応するためにオール電化厨房にすること、新調理システムを導入することを決めた。

 「腕の良い調理師を1カ所に集めることで味を均一化し、厨房温度を25度以下に保つようオール電化することで細菌が繁殖しにくく、職員が快適に働ける環境を作ろうと思った。スチコンなどは使っており、新調理システム導入の下地はできていた」と振り返る。

 大森理事長はすぐに厨房システムメーカーのニチワ電機(株)に厨房設計、機器選定、職員研修などのコンサルタントを依頼。管理栄養士や調理師と一丸となり、約1年かけてHACCP導入の12手順・7原則に基づく標準作業手順書やレシピづくり、調理トレーニングなどを進めた。

 現在、龍岡会では1日2700食分の主菜や副菜をクックチル方式と真空調理法で提供する。

 基本工程は提供日の前々日に下ごしらえした食材を加熱調理後、急速冷却してチルド保存。提供前日に温度測定・記録装置付きの冷蔵車でSKに配送し、提供日にSKの厨房で再加熱した後、保温カートで各フロアに運び、盛りつけして提供する。

 一方、主食のご飯と汁物はクックサーブ方式で1日3食、各施設のフロアで用意。汁物の具材は、CKで加工・調理したものを使用している。

 また、時間がかからない副菜や、焼魚などスチコンで簡単にできるものは、冷却の手間やコストを考えてクックサーブ方式でSKごとに調理。介護食は、一般的なソフト食はCKでクックチル方式で大量調理し、きめ細かな対応が必要なものはSKでつくる。

 厨房作業が効率化されたことで厨房職員の業務や負担は軽減され、その分、食事の質の向上などに力を入れられるようになった。

 そして全施設で利用者の希望に応じ、朝食の主食を白米・粥・パンから、昼食の主菜を2種類から、当日その場で選べるようにした。

 CKの加熱調理では、400人分を一度に調理できるニチワ電機(株)のスチコン2台や肉などを短時間で柔らかくできる真空調理器などを、冷却にはブラストチラー3台、冷水チラー2台を使う。スチコンやブラストチラーはSKにも導入され、再加熱や冷却などに使われる。

 こうした機器を使うことですべての工程でTT(時間と温度)管理ができるという。

 ◆職員の意欲がアップ

 厨房作業を支える職員は、CKが管理栄養士3人、調理師4人、パート毎食3人。SKが管理栄養士2人、調理師2人、パート2~3人。

 最初はこれまでと全く違う調理の仕方に戸惑う声もあったが、おいしい料理を安全に提供できることが分かり、職員の意識も変わった。そして工夫を重ねたレシピで作った食事が、利用者から「おいしい」と評価されるにつれ、モチベーションも上がっていった。

 開発したレシピは数千種類に及び、生のフルーツを除いて同じメニューが出ることはまずないという。

 また、旬の食材にこだわり、無添加の基本調味料や出汁を使うなど味はもとより、健康面にも配慮している。

 新調理システムなどを導入して11年。人件費は各施設で調理した場合に比べ3分の2に抑えられ、食材や水光熱費の無駄もなくなった。また、朝食時間は8時で変わらないが、調理師の出勤時間が6時半で間に合うようになるなど人材確保もしやすくなった。

 「1本の点滴よりスプーン1杯の食事が大切。だからこそ食事に力を入れている」という大森理事長。「新調理システムをうまく導入できたのも職員の研修やトレーニングに力を入れたから。それをしないで機器だけ入れても絶対うまくいかない」と話している。