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未知との出会い 「幻視」の世界へようこそ 認知症のイメージ変えて
東京都大田区の区立蒲田図書館長(指定管理者制度)、三橋昭(みつはしあきら)さん(71)が、レビー小体型認知症の影響で寝覚めに現れる幻視をイラストにして動画投稿サイト「ユーチューブ」などで紹介している。恐怖を感じる幻視はほとんどなく、トランプで遊ぶ動物とロボットたち、二足歩行で元気にジョギングするヤギ、といったユーモラスな姿もあり「毎朝何が出現するか楽しみ」と語る。地域の仲間と出版を目指す活動も始まり「認知症という言葉に含まれる負のイメージが少しでも変われば」と話している。【銭場裕司】
【こんな動物も出現】トランプするビーグル犬 あのロボットにそっくり?な仲間も
◇たまちゃんは幻視だった
三橋さんは東京都出身。映画に魅せられ、まだ10代だった頃に大島渚監督作品で助監督の一人を務めたこともある。女優の髪のセットに関わったことから美容師の資格を取り、化粧品メーカーに長く勤務した。55歳のころ図書館の仕事に転身し、今年で8回目を迎える蒲田映画祭の実行委員を初回から務めるなど地域で多彩な活動をしている。
実際には存在しないものが見えたのは2018年11月だった。明け方、枕元に近づいてきた雌の飼い猫、たまちゃんに触れようと伸ばした手が体をすり抜けた。たまちゃんは幻視だった。翌月には縄文時代の土偶が空中に浮かんでいた。
◇ハンガーにぶら下がる小人
精密検査を受けた19年3月、幻視が特徴であるレビー小体型認知症と診断される。幻視はほぼ毎朝現れるようになったものの、あっという間に消えてしまうため、記録として絵に残すことにした。
疾駆するキリン模様のウマ、頭の部分がスニーカーで袈裟(けさ)をまとった骸骨、ハンガーにぶらさがる小人……描いた絵は200点を超える。理由は分からないが、自分の経験や願望とは関係ないものが多いため「未知の記憶」と呼ぶようになった。毎朝、どんなものと出会えるか楽しみにしている。
転機になったのは19年秋、認知症の当事者や家族をはじめさまざまな顔ぶれが参加している地域の集まりに足を運んだことだ。不思議な雰囲気でかわいさもある幻視にひかれた仲間からの提案で、イラストをあしらった卓上カレンダーをつくった。映画製作に関わった経験を生かして、幻視をまとめた動画作品もユーチューブにアップした。
◇幻視体験「早期発見に役立てて」
初めて幻のたまちゃんを見た時は驚いたものの、冷静に対応できたのは、以前にレビー小体型認知症の幻視を体験できるVR(仮想現実)映像を見た経験があったからだという。仲間から出版化を勧められ、自分の経験を伝えることが他の人の早期発見につながれば、と挑戦してみることにした。
現在、仕事を含む日常生活は問題なく送れている。レビー小体型認知症による幻視は不気味で恐ろしいものというイメージが一般に広がっているものの、自身の場合、恐怖を感じることはほとんどない。三橋さんは「運良く選ばれた人だけが見える幻視の世界を楽しむ、というスタンスで付き合っていきたい。認知症になっても負のイメージを持たなくても大丈夫だと実感しています」と穏やかに語る。同じ症状の人と幻視の話ができることも心待ちにしている。
16日から出版への出資を募るクラウドファンディング(https://camp-fire.jp/projects/view/225565)がスタートした。ユーチューブの動画もこのサイトから視聴できる。
◇レビー小体型認知症
認知症の一種で脳の神経細胞に「レビー小体」と呼ばれる物質がたまって起きる。具体的な幻視が大きな特徴で、認知機能障害やパーキンソン症状などが表れることもある。アルツハイマー型認知症にあるような記憶力の低下はあまりみられない。