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生活音が頭に響く「聴覚過敏」 ストレス原因も

掃除機の音や雑踏の中など、周りの人が気にしないような生活の音が頭に響いて辛い。こうした症状は「聴覚過敏」と呼ばれる。近年は発達障害の特性である感覚過敏のひとつとして知られるようになったが、実は障害の有無にかかわらず、病気やストレスなどによって後天的に誰にでも起こりうるものだ。症状のレベルは人によってさまざまで、日常生活に支障をきたすこともある。(藤井沙織)

■「3つの原因」

 聴覚過敏の定義は明確に定まっていないが、症状は「音が耳につき刺さる」「頭の中で反響する」といった表現で訴えられる。症状のレベルには個人差があり、サイレンの音▽大勢の人の話し声▽掃除機などの機械音▽食器と食器が触れあう音-といった特定の音が辛い場合もあれば、聞こえる音すべてが苦痛ということもある。

 板谷耳鼻咽喉科(滋賀県草津市)の板谷隆義院長は、聴覚過敏の原因を3つに分類する。一つ目は「耳小骨筋の反射異常」。大きな音が耳に入ると、通常は耳の中の筋肉が収縮して音の大きさを抑制するが、このシステムがうまく働かずダイレクトに伝わってしまう。筋肉の一部は顔面神経に支配されており、顔面神経まひの際に発症する。

 二つ目は「内耳の反応異常」。低下した聴力をカバーしようと、音を脳に伝える内耳の細胞の働きに異常が起こり、音が割れて聞こえたりする。そして「検査方法がなく、推測の域を越えない」としたうえで指摘するのが「脳機能の異常」。音の情報を処理する聴覚野の感度が高まり、音が大きく聞こえると考える。

■生活環境見直し大切

 顔面神経まひによる発症ならばまひの治療にあたり、聴力の低下に伴うならば内耳の治療をすれば回復の見込みがある。しかし、慢性化すると治療が難しくなるという。また近年増えているのが、ストレスによる発症だ。ストレスが脳に影響を及ぼし、耳小骨筋の反射異常や脳の感度の上昇を引き起こしていると考えられるが、「明確なメカニズムは未解明で、治療法も確立していない」(板谷院長)のが現実だ。

 対応策としては、大きな音のある場所を避けるなど周囲の環境を整えるほか、耳栓やイヤーマフをつける方法もある。だが板谷院長は「常に着用していると、脳への入力が減る分、脳の感度が上がり悪化するおそれがある」として、限定的な使用を訴える。

 心因性の場合、精神状態が悪いと症状が重くなり、ストレスを緩和させると改善がみられるという。板谷院長は「病院での治療だけでなく、生活環境を見直し、ストレスの原因から距離を置くことが大切」と呼びかける。

■体験描いた漫画に反響

 「普通に働いていたら聴覚過敏になった」。そんな体験談を描いた漫画が3月にツイッターに投稿され、大きな反響を呼んだ。作者のちゃぼ(@p_ChAbO)さんは、過労などが重なり2年前に聴覚過敏を発症。症状が緩和して自身の経験と向き合えるようになり、「誰にでも起こりうると伝えたい」と考えた。

 保険の営業職に就いていたちゃぼさんは、自身のノルマに加え、採用、新人教育も担当するなど、いわゆる“ブラック”な環境で働くうちに聴覚過敏に。「音に殺される」と思うほど重症で、退職せざるを得なくなった。

 聴覚過敏になる前から、動悸が止まらない、急に涙が出るといった鬱状態を示す症状がありながらも、「逃げてはいけない」と頑張り続けたちゃぼさん。漫画は「本気で駄目だと思ったら、他人の目を気にせず逃げることを決断してください」と締めくる。

 心療内科に通って症状は改善し、今では週に数日は外出できるようになった。それでも、レストランや電車内などでは周囲の声や音から身を守るため、イヤーマフの代わりにイヤホンをすることも。できること、できないことが周囲からは分かりづらく、嫌な顔をされたり、批判されたりすることもあるという。

 漫画を投稿すると、励ましの声とともに、聴覚過敏をはじめ、周囲から理解されづらい疾病で「同じような経験をした」という声が数多く寄せられた。ちゃぼさんは「こんなにも多くの人が目に見えない病気に苦しんでいると知って驚いた。理解のある社会になってほしい」と話している。

 漫画の全編はちゃぼさんのツイート(https://twitter.com/p_chabo/status/1105765550808952832)から読むことができます。