介護・医療関連ニュース
-
骨粗鬆症、骨折なくても「危険」 発症で死亡率2倍とも(産経新聞)
加齢や、閉経による女性ホルモンの分泌減少などの影響で骨がスカスカになる骨粗鬆(こつそしょう)症は、国内に約1300万人もの患者がいるとみられながら、医療機関で治療や診断を受けている人は少ない。骨粗鬆症は骨折がなくても、発症するだけで死亡率が2倍になるとのデータもある。100歳までの存命が当たり前になる時代が迫る中、専門家は「健康長寿を全うするために、骨粗鬆症だと分かったらすぐに治療に入ってほしい」と訴える。(山本雅人)
【グラフで見る】年齢による骨密度の変化
◆リンが悪影響
骨折をしているか、していないかにかかわらず、「骨粗鬆症を放置するのは危険」と語るのは、大阪市立大大学院医学研究科の稲葉雅章教授だ。
稲葉教授らのグループは、血液データが継続的に得られる同大医学部付属病院の男性透析患者約270人を対象に、1年間に骨密度が減少した人とそうでない人とに2群に分け、両群を8年間追跡した。その結果、骨密度減少群では、亡くなった人の割合が、減少しなかった群の約2倍だったという。
その理由について稲葉教授は、「骨から血中に溶け出たリンが、血管の石灰化や腎機能の低下を引き起こした影響ではないか」とみている。骨はカルシウムとリンで形成されているが、リンは骨の形成のほかにも老化の促進など体に悪影響があることが知られている。
また、血中のリン濃度の上昇で心臓周囲の血管も石灰化することなどから、心筋梗塞や脳梗塞などのリスクが骨粗鬆症でない人に比べて3・5倍にもなるという米国でのデータもあるという。「喫煙によるリスクが2・7倍なのと比べても、どれだけ悪いかがよく分かる」(稲葉教授)
◆すぐに治療開始を
骨粗鬆症の検診は、40~70歳の女性を対象に5歳刻みで実施している市町村が多い。無料か低額の自己負担で受けられるが、受診率は全国平均で約5%と低い。骨粗鬆症かどうかを確定させるためにはさらに精密検査が必要で、そこまで進む人はさらに少なくなる。確定診断後に治療をした人となるとごくわずかという現状だ。
なぜこれほど少ないのか。稲葉教授は、「がんや脳卒中、心臓病などの病気に比べ、骨粗鬆症は“放置しても骨折するだけで命の危険はない”と思って検診を受けない人が多い」とし、さらに「治療自体も、例えば血圧が下がるとか痛みが軽減するといった分かりやすい効果があるわけではないので、非常に多くの人が途中でやめてしまう」と嘆く。
だが、「実際は骨折しなくても死亡率が上がることを知ってもらい、きちんと検診を受け、骨粗鬆症と診断されたらすぐに治療に入るべきだ」と強調する。
治療は薬の服用が主体となるが、稲葉教授は「薬物療法で骨折が減り、死亡率も下がることがデータで証明されている。専門医と相談しながら進めてほしい」と話している。
■筋肉増強でアイリシン分泌促進を
骨粗鬆症の予防には、健全な生活習慣が重要となってくる。
稲葉雅章教授は、日常の食事について「魚や乳製品などでカルシウムを多く摂取するとともに、カルシウムの吸収を助けるビタミンDが豊富に含まれる干しシイタケなどを一緒に食べるのがよい」と話す。
さらに最近の研究で、運動による筋肉の増強が骨の形成に重要だと分かってきたという。骨を取り巻く筋肉の力学的な刺激で骨が強くなるだけでなく、「筋肉増強で分泌が高まるアイリシンという物質が、骨を作る細胞に作用して骨の形成を促す」という。
筋肉の増強に、歩数を増やすことや、ペットボトルに水を入れダンベル代わりにして運動することなどをすすめている。