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「ごはんの中にアリがいる……」 認知症をめぐる「食事の困りごと」にどう向き合うか

塩野崎淳子 在宅訪問管理栄養士しおじゅんのゆるっと楽しむ健康食生活

 認知症の方は、直前の記憶が失われることで、食事をした直後でも「食事はまだか」「まだ食べていない」と言い、家族が困っていることがあります。そんなとき「何を言っているの! たった今食べたじゃないの!!」と叱りつける介護者を時々みかけます。しかし、本人は「本当に覚えていない」のだから仕方がありません。それは記憶障害という「脳の障害」の症状のひとつです。

 「足の障害」がある人に「歩けないこと」を叱っていることと同じです。本人を叱りつけることは、自尊心を傷つけて自信を失わせてしまうこともあります。その結果、自宅に引きこもってしまい、社会とのかかわりがなくなることで、さらに認知機能が低下するという悪循環を引き起こしかねません。

「食べた、食べていない」より話題を切り替えよう

 10年ほど前のことですが、長期療養型の認知症専門病院で仕事をしていたとき、朝食直後に病棟にいると「栄養士さん、食事はまだ?」と聞かれることがよくありました。最初は「あら、さきほど召し上がっていましたよ」と返していましたが、本人は首をかしげて納得していない様子です。そして少し悲しい表情をするのです。

 その5分後、また同じように声をかけられました。「給食はまだなのか」と。そこで私はこう答えました。「いま、厨房(ちゅうぼう)で調理師さんたちが腕によりをかけて料理を作っています。今日はちょっと手間のかかる料理だから、少し時間がかかっていますので、もうしばらく待っていてくださいね」と。そうすると、その患者さんは「そうなの。どんな料理かしら。楽しみね」と言って笑みがこぼれました。

 すかさず「〇〇さんは、どんな料理が好きですか? 献立を立てるときのヒントにするので教えてください」と言うと、うれしそうに「食べたい料理」を挙げてくれます。そんな話をしていたら、「食事を食べていない」と言わなくなりました。

「食事を食べない」のは「食べ方」がわからないから?

 認知症といっても、タイプによってその症状の表れ方はさまざまです。アルツハイマー型認知症、脳血管性認知症、レビー小体型認知症、前頭側頭葉変性症が「4大認知症」と呼ばれています。同じタイプの認知症であっても、その方の性格や環境によって、進行度や症状の表れ方はひとそれぞれ。「こうすれば解決」という正解がないのが難しいところです。

 「目の前に食事が出ていても食べ始めない」という方は、「食事が見えていない」、もしくは「食事の始め方」がわからなくなって、止まっていることがあります。前者は白い茶わんに白いご飯だとコントラストが少ないために見えにくいので、塗りの食器に替えてみるとスムーズにいく可能性があります。後者の場合は、隣で「一緒に食べましょう。お箸を持ってください」と声をかけ、自分が食べる様子を見せながら、最初の一口をやさしく促したり、右手に箸、左手に茶碗を持たせて手を添え、最初の一口を口に運ぶお手伝いをしたりすることで、食事を始められることもあります。

 つまり、「食欲がないのね」とすぐに食事を下げてしまうのではなく、「食べ始めるお手伝い」が必要なのです。「何をしているの? はやく食べなさいよ! 片付かないじゃないの」などと叱らず、食べない理由をぜひ観察してみてください。

 また、脳血管性認知症の方の場合は、脳の障害によって料理の片側を認識できないために、手つかずのまま食事を半分残してしまうことがあります(半側空間無視という症状です)。その場合は、お皿をクルッと半回転して、「認識」してもらうことで、全量食べられることがあります。残したくて残しているわけじゃないのです。

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