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イヨカン果汁で認知機能改善 脳梗塞発症後に効果 愛媛大研究
■脳梗塞発症後に効果 愛媛大研究
人生100年時代を健康で乗り切るためには、体力とともに認知機能の維持が重要だ。認知症には、異常なタンパク質が脳にたまって発症するアルツハイマー型のほかに、脳梗塞などに起因する脳血管性のものも多いが、愛媛大医学部の学生による研究で、イヨカン果汁を摂取すると脳血管性の認知症を抑制できる可能性が示された。どの成分によるものかも特定しているという。(山本雅人)
◆地元の特産物で
研究を行ったのは、愛媛大医学部4年の川上萌さん。川上さんは、45匹のマウスを4群に分け、うち3つの群には頸(けい)動脈をクリップで18分間塞ぎ、脳梗塞を起こした状態を再現(残り1群は何もせず“健常”な状態)。“脳梗塞”状態の3つの群のマウスに対してはそれぞれ、温州ミカンの10%果汁▽イヨカンの10%果汁▽比較のため水だけ-をクリップ前後の計4週間飲ませた。果汁は地元特産品「ポンジュース」で知られるえひめ飲料(松山市)が提供した。
その後、マウスの認知機能をテスト。新しいものに興味を持つマウスの習性を利用し、空間の3地点間の移動をチェックし、新しい地点に向け移動していくのを習性通りの「正常な状態」、一方、新しい地点に向かわず、1つ前にいた地点に戻る動きは「認知機能の低下」とみなして観察した。
その結果、頸動脈を塞がなかった健常マウスの移動パターンを、認知機能が正常(標準)の「100」とした場合、水だけを飲んだマウスは、正常な動きの率が健常マウスと比較して78%(残りの22%が認知機能低下に該当する、習性とは異なる動き)だったのに対し、温州ミカンは87%、イヨカンは93%-と、脳梗塞の状態にありながらイヨカンはわずか7%の認知機能低下に抑えられた。
「温州ミカンでも認知機能低下の抑制効果はあったが、イヨカンで効果がさらに高いのは、イヨカンに特異的に含まれる成分によるものではないかと考えた」という川上さんは、ミカンの約20倍もの含有量のあるポリフェノールの一種「ヘスペリジン」に着目。
そこで33匹の脳梗塞マウスを2群に分け、それぞれヘスペリジンの溶液と無成分の液体を摂取させ、健常マウスと比較した。無成分の群は正常な動きが87%だったのに対し、ヘスペリジン摂取の群は97%。他にも、ヘスペリジン摂取群は脳の神経細胞死の抑制や脳内の酸化ストレスの軽減などが認められたという。
ただ、イヨカン果汁でみられた脳の血流改善効果は、ヘスペリジンでは認められなかった。指導した同大大学院の堀内正嗣教授は「イヨカンには、ヘスペリジンにはない血流改善を促す何らかの成分も含まれていると考えられる」とし、「ヘスペリジンをサプリなどで単独摂取するのもいいが、さまざまな成分を含むイヨカンやミカンの摂取を勧めたい」と話す。
◆国際的に反響
今回の研究で使われた10%の果汁は、人間が1日に摂取する水分を2リットルとした場合、200ミリリットルの100%ジュースを飲むことと同じことになる。
川上さんは、米心臓協会(AHA)の高血圧分野の学術集会(昨年9月、シカゴ)で、この成果を英語で発表し、反響を呼んだ。
認知症では、アルツハイマー型が68%と最も多く、脳血管性はそれに次ぐ20%。だが最近では、両者が融合し、脳梗塞で脳内の異常タンパクがたまりやすくなったり、異常タンパクを作る酵素が活性化したりするなど、悪循環に陥っているケースも多いとされる。また、脳梗塞は、本人も気づかない小さな無症状のものを含めると、40代から発症している人もいる。
愛媛大独自のシステムにより、1年次から、授業や試験の合間を縫い研究を続ける川上さんは、「今後はより詳しくメカニズムを解明したい」と話している。