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どうすれば安全安心:シニアPlus 高齢者の災害避難 「地域みんなで」共有を
西日本豪雨では河川の氾濫や土砂崩れで200人以上が亡くなり、高齢者の犠牲が目立った。岡山県倉敷市の場合、身元が判明した犠牲者52人(20日現在)のうち65歳以上は46人で約9割に及ぶ。足腰が弱っているお年寄りに、どうすれば速やかな避難を促せるのか。防災の専門家に聞いた。【鈴木梢】
住民自ら状況判断/防災訓練に参加する/老後への備え50代から
危機管理アドバイザーの国崎信江さんは9日、被災した友人を励ますため、甚大な被害を受けた倉敷市に入った。市の災害対策本部をサポートし、その一環で避難所を訪れ、聞き取りを行った。「逃げるのが、とにかくおっくうでした」。高齢の避難者は口々にこんな言葉を語ったという。
1人暮らしで避難を手助けしてくれる人がいなかったり、徒歩以外に移動手段がなかったり、それぞれの事情があった。犬などのペットを飼っていて、それが気掛かりで自宅で待機したという声も。足の不自由な高齢者が遠方で暮らす子供に電話で助けを求めたが、間に合わずに犠牲になったという痛ましい話にも接した。
国崎さんは「高齢者は困ったことがあると、身内を頼りがち。今回の豪雨でも、近所の人に一緒に逃げてほしいと頼んでいれば、助かった人がいるかもしれない。いざという時は、近所の人が頼りだと意識してほしい」と強調する。
気象庁は6~8日、数十年に1度の異常な降雨に備えてもらうため、「大雨特別警報」を広島、岡山など11府県に出し、最大の警戒を呼びかけた。警報発令の前に記者会見を開き、大災害をもたらす可能性について説明するなど異例の対応を取った。
東京大総合防災情報研究センターの片田敏孝特任教授は「気象庁が踏み込んだ対応を取って注意を喚起しているのに、まさか自分の身に起こるとは思わなかった人がいたのは事実です。災害情報は充実していましたが、それを生かせるかどうかは当事者である住民次第なのです」と指摘する。
ならば、どうすればいいのか。片田さんは「住民主体の防災」を提唱する。「日本の防災は、行政が避難情報を出したら逃げるという発想が基本です。でも、住民は災害時、受け身ではいけません。行政の避難情報の有無にかかわらず、住民が自宅の立地条件や、家族の置かれた状況によって避難が必要かどうか主体的に判断すべきです」と強調する。
近所付き合いが希薄になり、コミュニティーの機能が弱まった現代では、地域防災は成り立たなくなってきたと言われる。しかし、片田さんは発想の転換を求める。「その昔、江戸の街は木造家屋で日常的に火事があったから、住民が連携して初期消火する必要があった。現代において、火事に相当するのは災害です。防災を目的にしてコミュニティーを再生するという発想を持ってほしい」と提言する。
40人以上が犠牲になった昨年7月の九州北部豪雨で、片田さんは被害実態を把握するための調査団の一員として現地入りした。被害を最小限に抑えた地域に共通していたのは、「災害時に地域のみんなで逃げる」という取り決めがあることだった。キーワードは「みんな」だ。
「災害は我がことと考えづらく、特にお年寄りは、これまで長く生きてきて被害に遭ったことがないという過去の経験に頼りがちです。だから、お年寄りも含めてみんなで逃げることが重要です。その意識を地域住民が共有できれば、助ける側も迅速な行動に移せる。高齢者の避難を特別なものと考えるのではなく、一人の犠牲者も出さない地域づくりを目指すことが重要です」
都会で住民同士が助け合う関係を築くのは難しいのでは? 国崎さんに尋ねると「地域で防災訓練があれば、参加してみてほしい」と提案する。「訓練に3時間参加するだけで、互いに顔見知りになります。足腰が弱い人であれば、手助けが必要なことを知ってもらえる。家族でなく地域の中で、災害時にあなたのことをすぐ思い浮かべてくれる人を増やす努力をしてほしい」
西日本豪雨の被災者が「避難がおっくう」と話していた問題にも、解決策があるという。「高齢者は自宅から逃げても、不便な避難所生活が待っているのではないかと尻込みしてしまう。どんな生活か分からないから面倒だと感じてしまうのです。だから、あらかじめ避難経路や避難所を確かめておくと、心の準備ができます。避難所に畳はあるのか、トイレはどんな状況なのか。避難生活を事前にシミュレーションできれば、安心感が違います」
国崎さんが防災の講演をすると、参加者から「避難する時、何を持っていけばいいですか」とよく質問を受けるという。「第三者がすぐに調達してくれない、個人的に必要なものを優先してそろえるといい。高齢者であれば義歯だったり、薬だったり。自分にしか分からないものなので、自分で考える必要があります」。重い荷物が持てないのなら、リュックではなく防災ベストのポケットに必要なものを厳選して入れ、体に負担なく逃げることを勧める。
「高齢になったらどう災害に対応するか、早めに考え始めてほしい。財力と体力がある50代がその分岐点です」と国崎さん。ポイントは家と財産という。「体力が衰えて逃げ遅れてしまうような立地であれば、引っ越すのも方法の一つです。被害を減らすのに必要ならば改修する。収入のある若い頃とは違い、高齢になってから家や財産を失うと、生活の再建は厳しくなります。例えば、住宅と家財の補償がある地震保険・共済に入っておく選択肢もあります」とアドバイスする。