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ES細胞の老化回避機構を解明
-再生医療への多能性幹細胞の安定供給を目指して-
化学研究所(理研)多細胞システム形成研究センター多能性幹細胞研究チームの丹羽仁史チームリーダーと二木陽子研究員の研究チームは、マウスES細胞(胚性幹細胞)がテロメア長を維持することで老化を回避し、長期間の培養に耐える仕組みを明らかにしました。
ES細胞は、体を構成するすべての細胞種に分化することができる「多能性幹細胞[1]」です。一般に細胞は分裂を繰り返すことで、染色体DNAの末端にあるテロメアと呼ばれる部分が短くなり老化しますが、ES細胞は老化することなく半永久的に培養することができます。
研究チームはマウスES細胞を顕微鏡下で長時間観察し、その様子を1個1個の細胞ごとに解析しました。その結果、ES細胞の細胞周期(分裂を終えた細胞が次に分裂するまで1周期)の長さはこれまでほぼ均一と思われてきましたが、実際には大きなばらつきがあることが分かりました。さらに細胞周期が長い状態にあるES細胞は、テロメアが短く削られた状態であることが分かりました。通常、テロメアの短縮が進むと、細胞はそれ以上分裂できず、細胞死へと導かれます。しかしES細胞では、テロメアの短い状態のときに「Zscan4[2]」というタンパク質が著しく増加して、テロメアの長さを元に戻し、細胞の老化を未然に防いでいることを突き止めました。
Zscan4がマウスES細胞でテロメアを伸長し、遺伝子を保護することは、2010年、米国国立衛生研究所(NIH)の研究グループが発見しました。しかし、Zscan4はすべてのES細胞にいつも発現しているわけではなく、どのようなときに発現するのかは分かっていませんでした。今回研究チームは、ES細胞におけるZscan4の発現を経時的に観察することにより、Zscan4がランダムに発現しているのではなく、テロメアが短くなったことに応じて発現が誘導され、テロメアの長さを元に戻すことで細胞の老化を回避していることを見出しました。
今回の成果は、再生医療分野での応用が期待されるES細胞およびiPS細胞の安定的な培養への応用が期待できます。
本研究はCREST戦略的創造研究推進事業:「人工多能性幹細(iPS細胞)作製・制御等の医療基盤技術」研究領域(研究総括:須田年生慶応義塾大学医学部 教授)における研究課題「分化細胞に多能性を誘導する転写因子ネットワークの構造解析」(研究代表者:丹羽仁史)の一環として行われました。
成果は、米国の科学雑誌『Stem Cell Reports』(4月12日号)に掲載されるのに先立ち、オンライン版(3月17日付け:日本時間3月18日)に掲載されます。