介護・医療関連ニュース

遠隔診療、エビデンスの集積を優先-ポート・春日CEOに聞く(医療介護CBニュース)

遠隔診療サービス『ポートメディカル』では今、エビデンス(科学的根拠)の集積とオペレーション効率の向上を優先しています」-。インターネットサービスを手掛けるポート株式会社(東京都新宿区)の春日博文代表取締役CEO(28)は、こう話す。  ポートは6月に宮崎県日南市と、同市の無医地区で遠隔診療の実証に取り組む協定を締結したのに続き、今月6日には東京女子医大(同区)と、高血圧症と診断された患者に対してさまざまな物をインターネットでつなぐ「IoT」を活用した遠隔診療を導入する共同研究を開始すると発表した。

 遠隔診療については昨年8月に厚生労働省が、医政局長名で取り扱いを明確にする事務連絡を出した。これに一部の関係者が「遠隔診療の解禁」などと勇み立ち、遠隔診療だけで完結させることを想定したネット診療をうたう事業者も現れた。

 これらの動きに対して厚労省は今年3月、東京都の疑義照会に答える形で、遠隔診療だけで完結させることを想定したネット診療が、無診察治療を禁じている医師法20条に違反するとの見解を示した。

 遠隔診療だけで完結させることを想定したネット診療について、関係者の多くがポートの「ポートメディカル」と話している。「ポートの行き過ぎた動きを行政がけん制した」との声も聞かれる。ポートの春日代表取締役CEOに聞いた。

 これが当社のことを指しているかは分かりませんが、初診から遠隔診療という建て付けでサービスをスタートしようとしました。しかし、ネットで完結させることを想定していたのではなく、初診を遠隔診療にすることで、何らかのペイン(痛み)を持った人が、医療を受けやすくなると考えたのです。

 そもそも、遠隔診療に取り組もうと思ったのは、多忙を極めるビジネスマンや育児中のママさんなどは身体に不調を感じても、なかなか医療機関を受診しません。健康管理を後回しにしがちです。それをインターネット上で診療が受けられる状況をつくることで、医療にアクセスする際のハードルを下げ、この現状を変えたいと思ったのです。

 今、盛んに予防医療の議論がされています。その考え方に、まったく異論はありません。しかし、健康管理についてのリテラシーが低い人は自ら、予防医療につながることに積極的には取り組みません。それならば、医療にかかる初診というハードルを、遠隔診療で下げてはどうだろうかと考えたのです。

 今年1月、試験的にリリースした「ポートメディカル」α版のサービスをいったん停止して、社内の体制を見直しました。私たちポートは、インターネットサービスの会社ですから、利用者目線中心の遠隔診療の仕組みになっていました。そこで2人の医師にスタッフになってもらいました。それ以降、看護師や栄養士にも入ってもらい、チーム医療ができる態勢にしています。

 日南市には、ポートの主力事業であるインターネットメディア事業のサテライトオフィスがある縁で、実証に取り組むことになりました。間もなく、実証の結果が出始めると思います。ほかの自治体とも連携しようという話があります。東京女子医大と共同研究をすることで合意に至ったのは、遠隔診療についてのアカデミアの知見も必要だと考えたのです。

 「ポートメディカル」β版は、間もなくリリースする予定ですが、導入医療機関数などの目標は設定していません。今は、エビデンスを集積するのが先決です。それと、「ポートメディカル」の使い勝手、つまり、医療機関内でのオペレーション効率の向上を急ぐ必要があります。

 今、遠隔診療の業界内でのシェア争いが注目されているようですが、現時点ではあまり気にしていません。「ポートメディカル」は医療機関の負担を増やさないように、電子カルテとの接続を簡易にするなどしてシステムを使いやすくしたり、運用費用については無料を含めて低価格に抑えたりする方向で検討しています。

 遠隔診療に抵抗感のなくなった医療機関では、複数のシステムを導入することもあると考えています。そういったケースで、当社のシステムを選んでもらえるよう完成度を上げていきます。