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原因不明の神経疾患「けいれん性発声障害」…治療の進歩で改善
声の病気には声帯ポリープや急性喉頭炎、心因性のものなど様々なものがあり、うまく声が出せずに苦しんでいる患者は多い。このうち、のどにある声帯のけいれんで声が出にくくなる「けいれん性発声障害」は治療法が進歩し、生活の質を改善できる人が増えている。(鈴木希)
初の診療指針作成
声は、他人と意思疎通を図る上で重要な役割を果たすため、うまく出なくなると、仕事に支障を来したり、精神的な病気と誤解されたりして、生活に大きな影響を与える。声帯は気管の入り口にある左右一対のひだで、軽く閉じた声帯の間を空気が通るときに振動することで音が出る。
声の病気の中で、良性のこぶができるポリープなどは、声帯そのものの異常だ。ただ全て声帯に問題があるとは限らず、甲状腺や呼吸器、神経など原因は多岐にわたり、診断や治療が難しいことも多い。
そこで、日本音声言語医学会などは2018年、声の病気(音声障害)に関する国内初の診療指針を作った。作成に携わった高知大病院耳鼻咽喉科・頭頸(とうけい)部外科教授の兵頭政光さんは「全国どこの医療機関でも、きちんとした診断や治療を受けられるようにするのが狙い」と説明する。手術が保険適用に
けいれん性発声障害も診断されにくかった病気の一つだ。本人の意思とは関係なく声帯がけいれんする。筋肉が勝手に動いたり硬直したりする「ジストニア」という神経の病気の一種で、原因は不明だ。
大半を占める「内転型」は、声帯が強く閉じてしまい、声が詰まったり、途切れたりする。特定の言葉が出にくいなどの特徴がある。国内の患者数は4500~9000人と推定され、20~40代の女性に多い。
治療法には、声帯の異常な緊張を抑えるボツリヌス毒素の注射などがあるが、この病気をよく知らない医師も多く、精神的な病気と判断されて抗不安薬を処方される患者もいるという。
新たに登場したのが、チタン製の医療器具「チタンブリッジ」を埋め込む手術だ。局所麻酔をして声帯の外側にある甲状軟骨を切り開く。患者に声を出してもらいながら、どれぐらい広げたら調子がいいか確認する。器具で固定して空気の通り道を確保することで、声が出やすくなる。3~7日間の入院が必要だ。
名古屋市内の会社員女性(31)は3年前に発症した。「はい」が「ぁい」となり、特定の数字や専門用語がうまく話せず、仕事で電話ができなくなった。最初に受診したクリニックでは「異常なし」と診断された。
別のクリニックで、名古屋市立大病院耳鼻いんこう科講師の讃岐徹治さんを紹介され、18年9月、この手術を受けた。根本的な治療ではなく、声が完全に元通りになるとは限らないが、出しやすくなる人が多い。女性は「普通に声が出るようになって、すごくすっきりした」と喜ぶ。
この手術ができる医療機関は、大学病院を中心に全国で約30か所ある。18年に保険が利くようになり、治療を受ける患者も増えている。
讃岐さんは「10年以上も症状を我慢していた人もいて、潜在的な患者はもっといるはず。治療できる病院がさらに増えることが期待される」と話している。