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白色の光でがん患者の疲労改善=米臨床試験(ウォール・ストリート・ジャーナル)

ニューヨーク市の法律事務職員ワンダ・クウィチェックさん(64)は血液のがんの一種である多発性骨髄腫の患者だ。2014年に化学療法による治療を受け、幹細胞移植も受けた。治療を受け始めると、眠れなくなり、精神的にも消耗した。仕事から帰ると疲れ切っていて、すぐに横になって休むようになった。

 クウィチェックさんは昨年、マウント・サイナイ・アイカーン医科大学の臨床試験に参加した。試験の目的は、定期的に明るい白色の光を照射することで多くのがん患者を悩ませている極端な疲労や気分の落ち込みを緩和できるか確かめることだ。

 4週間にわたって毎朝30分、強い白色の光を放つ特別な照明装置の近くに座った。光を浴びている間はコーヒーを飲んだりテレビのニュースを見たりすることが多かった。クウィチェックさんはすぐに症状の改善を実感した。以前よりよく眠れるようになり、日中の疲労も改善した。「幸福感が増した。光を浴びると以前よりも元気になった」。

 直近の臨床試験には54人のがん患者が参加。うち約半数は明るいの白色の光を、残りの被験者は薄暗い赤い光を浴びた。研究チームのリーダーの1人で、マウント・サイナイの腫瘍科学助教授、Heiddis Valdimarsdottir氏が先月の米心身医学会議(APS)年次会合で報告した中間結果によると、白色の光を浴びた患者では落ち込みの症状が大きく緩和されたが、赤い光を浴びたグループには実質的な変化は見られなかった。

 マウント・サイナイの心理学者で内科教授のウィリアム・レッド氏は「ガン患者は光が不足することが分かっている」と話す。光療法は「疲労と気分の落ち込みがあるがん患者に大きな効果があった」という。レッド氏もこの研究チームのリーダーの1人だ。

 季節性情動障害(SAD)――日照時間が短くなる冬に起きるうつ――や時差ぼけの影響などさまざまな症状の治療に明るい光が効果をもつ可能性があることは以前から研究者が指摘していた。英王立精神医学会のオンライン誌「ブリティッシュ・ジャーナル・オブ・サイカイアトリー・オープン」は先月、患者900人前後が参加した20の研究についての分析を取り上げた。これによると、光療法は季節を問わない典型的なうつに対しても「追加的な治療介入」として役立つ可能性があるという。

 カリフォルニア大学サンディエゴ校の名誉教授ソニア・アンコリ=イスラエル氏によると、光療法は全ての患者に効果があるとは言い切れない。重度のうつには効かない可能性があり、必ずしも薬や従来の治療法の代わりにはならないそうだが、光療法には「ガン患者の生活の質を改善する潜在的な力」があるという。アンコリ=イスラエル氏はマウント・サイナイの研究チームと連携している。

 光を浴びると患者の気持ちが晴れるメカニズムはまだ完全には解明されたわけではないが、光療法は睡眠に影響する「サーカディアンリズム」と呼ばれる24時間周期の生物のリズムなどに作用して効果をもたらす可能性があると考えられている。Valdimarsdottir氏によると、がん患者はこのリズムが乱れていることが多い。

 最新の研究はがん患者のうつの兆候に注目し、被験者に疲労の度合い、うつの症状、睡眠に関する問題についてのアンケート調査を行った。その結果、全ての患者が治療が必要なほどの疲労に悩まされていることが分かった。

 被験者は毎日30分、大学が用意した特別な照明機器の近くに座るよう指示された。顔から約18インチ(46センチ)の距離に45度の角度で機器を置き、じっと座っているかぎり、コーヒーを飲んだり本を読んだりしてもかまわない。機器が発する光の明るさは1万ルクス。例えば、室内の明るさは200ルクス未満が普通で、晴れた日に屋外を散歩すれば1万~5万ルクスかそれ以上の明るさの光を浴びることになる。研究チームは被験者がいつ、どのくらいの時間、光を浴びたかを追跡した。

 研究チームは米国立がん研究所から獲得した340万ドル(約3億7000万円)の補助金で光治療について5年がかりの研究を始める。この研究もがん患者の疲労、落ち込み、睡眠障害、サーカディアンリズムについて行われ、マウント・サイナイとメモリアル・スローン・ケタリングがんセンターで募った200人の患者が参加する予定だ。

 研究に関わるスローン・ケタリングの心理学者キャサリン・デュアメル氏は「薬も認知行動療法もあるが、(光療法は)非常に手軽」と話している。

 マウント・サイナイの臨床試験に被験者として参加したニューヨークの映像編集者ショーン・メリアムさんは(48)は多発性骨髄腫の治療で疲れ切っていたという。昨年、幹細胞移植を受けたあとは疲れはさらにひどくなった。

 はじめは光治療の効果を疑っていたそうだが、効果はあった。ただ変化が少しずつ起きたため、試験が終わるまで症状がどの程度改善したか気づかなかった。「(光治療を)やめると違いを感じた。『また疲れている』と思った」。

By Lucette Lagnado