介護・医療関連ニュース
-
働き盛り世代の若年性認知症。高円寺の小さなカフェが紡ぐ、それぞれの仲間のストーリー
ねじめ正一さんの小説の舞台にもなったJR高円寺駅(東京都杉並区)の駅前商店街。にぎやかな通りを抜けると、れんが壁が目印のこぢんまりとした建物が見えてきます。扉には「ちいたび会」の文字。中野区と杉並区を拠点に活動するNPO法人「若年認知症交流会 小さな旅人たちの会(ちいたび会)」の事務所です。若年性認知症の当事者や家族が普通の暮らしが出来る地域づくりを目指し、2013年に設立されました。月2回、この事務所で「若年認知症カフェちーたーひろば」を開いています。
09年の厚生労働省の調査によると、若年性認知症の患者数は全国で約3万8千人。発症の平均年齢は51.3歳です。働き盛りの世代のため、仕事の継続や住宅ローン、子どもの教育費といった経済的な問題に直面し、精神的な負担も大きいと言われています。夫の診断をきっかけに
ちいたび会の理事長、高橋恵美子さん(69)が若年性認知症と関わるようになったのは、夫婦で学習塾を経営していた約20年前のこと。当時50代前半だった夫が若年性アルツハイマーだと診断されました。
「『用事がある』と出かけて行ったのに、すぐに帰って来ちゃったり、逆に自転車で出かけたまま帰って来なかったり、おかしな言動が続くようになりました。アウトドア好きの健康体で、めったに病院にかかることのなかった夫ですが、一緒にお茶の水にある大学病院の精神科を受診しました。すぐにアルツハイマーだと言われ、ショックよりも『ああ、やっぱり』という気持ちの方が大きかったですね」
医師の「福祉サービスなどの社会資源を利用して、1人で抱え込まないように」というアドバイスもあり、高橋さんは関東広域で活動する「若年性認知症家族会 彩星の会(ほしの会)」に参加するようになりました。その頃、若年性認知症という言葉自体がほとんど知られておらず、家族会も関東に「彩星の会」、関西にもう一つの会があるだけだったそうです。「私だけじゃない」という安心感
「交流会で同じ境遇の人たちと話すうち、『私だけじゃない』という安心感とともに、『自分の地域に会があれば』という思いがわき上がり、仲間を募ってちいたび会を始めました」。
会設立から3年後に夫が亡くなってからも高橋さんは運営を担い、現在は8人の役員を中心に当事者や家族、サポーターなど約70人の会員で交流会や旅行などアットホームな活動を続けています。会員以外も気軽に参加出来る場である「ちーたーひろば」はこの春、スタートから満2年を迎えました。
3月初めのお昼時に訪ねると、カレーの良い香りが店内に広がっていました。「うちの自慢のカレーだよ! コーヒーもどう?」と運営スタッフの男性が明るく薦めてくれます。10人ほどが一つのテーブルを囲み、カレーを食べたり、コーヒーを飲んだりしながら、話に花を咲かせています。
杉並区在住の三川一夫さん(71)と泰子さん(63)は、ピアノ講師をしていた泰子さんが5年前に若年性認知症と診断されました。「左頭頂葉の萎縮によって物の形が認識できなくなり、楽譜が読めない、鍵盤の位置が分からない。大好きなピアノを失ってしまいました」と一夫さん。そんな時、交流会でピアノを弾く機会があり、人前で演奏出来たことで自信を取り戻したと言います。泰子さんも「私が落ち込んでいたら、周りも暗くなるでしょう」と笑顔で話します。1/2ページ