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介護施設でビール造り、ゲームで学ぶ老後をデザインスクールが提案(産経新聞)

【介護と福祉のこれから】

 介護施設でビールを醸造しよう、ゲームで介護保険制度を体験しよう-。介護と福祉の仕事をさらに魅力的なものにしようと提案、実践するプロジェクト「これからの介護・福祉の仕事を考えるデザインスクール」が、中部ブロックも順調に進んでいる。来月、東京で開かれる発表会「おいおい老い展」を前に、名古屋市でお披露目された。(牛田久美)

 街づくり事業などを手がける大阪府吹田市の「スタジオ・エル」が開講中の平成30年度の厚生労働省補助事業。全国8ブロックで公募の約500人が活動中だ。

 中部ブロックは8班52人。今月、展覧会「これからの介護と福祉のものがたり」を名古屋市内の商業施設「グローバルゲート」で開き、約1200人の来場者でにぎわった。

 ◆未来の現場考える

 入り口の展示は、遊び仲間を募る「俺の求人票」。介護の仕事は、食事、排泄(はいせつ)、入浴の身体介護などが中心だが、未来の介護の現場は、AI(人工知能)やIoT(モノのインターネット)の発展でマイクロセンサーでの健康管理、車いすの音声操作、無線LANによる見守りが進むと想定され、介護職の新しい役割を話し合ってきた。

 「介護職の仕事が軽減される分、体が不自由になった高齢者があきらめていたことの実現を支えたい」と、興味があることに一緒に取り組む仲間を高齢者自身が募る“求人票”を提案。「年を重ねて人間関係が閉じていくのは寂しい。対話で開き、ささやかな楽しみを贈りたい」(同チーム)

 来場した同市千種区、小学2年、湯原壮生真(そうま)君(8)、和奏(わかな)ちゃん(5)兄妹も求人票書きを体験。「年をとったらだれと何して遊ぶ?」と聞かれた和奏ちゃんは、遊んでいるときによく転ぶことを思い出し、同じ立場で寄り添ってくれる人を一生懸命に思い浮かべていた。

 母親の介護士、明日香さん(34)は「私たちの次世代のリーダーを育てるには誇れる仕事と思えることが大切。チームの後輩たちがやる気のわくヒントを見つけたい」と話した。

 ◆ラベルに「金言」

 介護施設でビールの提供を目指すチームは、地域の人が施設に集まる方策を話し合ってきた。介護士たちが職場で耳にしたよい言葉を集め、瓶のラベルに。中村澄子さん(102)の「一生懸命生きていたら知らぬ間に百才になりました」や、70代夫婦の「シルバーヘアーのステキな君にひとめ惚(ぼ)れ」-など。農業を営んでいるチームリーダーらと、原料の大麦を畑にまいた。収穫後の醸造方法を勉強中だ。

 介護のゲームは、突然、父親の認知症が分かったと想定。管理栄養士、生活相談員、ケアマネジャーらが登場し「介護申請」「要介護認定」などの用語も飛び交う。看取りまでさまざまな場面を体験できる。

 愛知県岩倉市、社会福祉士、二村直人さん(34)は「大人気の『人生ゲーム』は億万長者になって終わる。ぼくたちはその先の長い人生を分かりやすく伝えたい」。同県西尾市、社会福祉法人理事長、田中正大さん(41)も「どんな場面で、どうしたら生活が喜びに変わるのか体験してほしい」と話す。普段、「もっと早く相談に来てくれたら」と感じることが多いため、介護に興味が薄い人にこそ遊んでほしいという。

 京都精華大学特任講師、兼松佳宏さんは「ゲームをしていたら泣けてきた。どの展示も夢が広がっていい。自分の死生観を考えるきっかけになる」と感想を語った。

 全国70の提案が一堂に集まる老い展は3月21~25日、東京都千代田区の「アーツ千代田」で。無料。