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遺伝性認知症で起こる脳内異常を解明 - 量子科学技術研究開発機構などの研究グループ(医療介護CBニュース)
量子科学技術研究開発機構は、放射線医学総合研究所脳機能イメージング研究部の島田斉主幹研究員らの研究グループが、認知機能障害と運動機能障害を来す遺伝性の前頭側頭型認知症患者の生体脳に蓄積するタウタンパク質(タウ)を可視化し、その蓄積量が病気の進行の速さと関連することなどを明らかにしたと発表した。【新井哉】
前頭側頭型認知症は、前頭葉や側頭葉の神経細胞死によって、その部分が萎縮していく特徴がある。アルツハイマー型認知症と異なり、40―60歳代で発症することが多い。病気が進行してから認知機能障害が現れるため、早期に診断して適切な治療を行うことが難しい。前頭側頭型認知症患者の死後の脳を解析した研究では、脳内の病理変化としてタウの蓄積が認められることが確認されていたが、臨床症状や病気の進行の速さとの関連は十分には明らかとなっていなかった。
同研究部の島田主幹研究員と樋口真人次長、順天堂大脳神経内科の西岡健弥准教授と服部信孝教授らの研究グループは、同機構が開発した生体脳でタウを可視化するPET(陽電子断層撮影法)技術を用いて、単一の遺伝子異常によりタウの脳内蓄積が起こる遺伝性の前頭側頭型認知症(17番染色体に連鎖する家族性前頭側頭型認知症パーキンソニズム)の患者のタウ蓄積量や分布に加え、臨床症状・症状進行の速さとの関連を調べた。
その結果、遺伝的素因がよく似ていても、家系によっては病気の進行の速さに個人差が大きいことが判明。病気の進行が緩やかな家系では、タウの蓄積が脳幹部や側頭葉内側部など一部の脳領域に限局し、蓄積量も比較的少なかった。その一方で、病気の進行が速い家系では、広範な脳領域にタウが多く蓄積していることを見いだしたという。
研究グループは、「これらのことは、タウの脳内蓄積が前頭側頭型認知症の多様な臨床症状に関与していることを示すだけでなく、タウの脳内蓄積には単一の遺伝子異常だけでなく、さまざまな遺伝的・環境的要因が影響し得ることを示唆する」としている。この研究の成果は、米国の科学誌「Movement Disorders」のオンライン版に掲載された。