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簡便な診断テストで判別できない「認知症」をどう見極めるか?

今回は、医療機関等で広く利用されている認知症の診断テストで判別できないケースへの対応策を見ていきます。※本記事は株式会社メディカルリサーチ代表取締役・圓井順子氏の著書『人生のリスクを未然に防ぐ意思能力鑑定』(株式会社ザ・ブック)から一部を抜粋し、社会的トラブルを防ぐ「意思能力鑑定」、その活用法について事例を交えながら解説していきます。

簡便な診断テストで判別できない「認知症」をどう見極めるか?

簡便な診断テストで判別できない「認知症」をどう見極めるか?

広く用いられている「長谷川式認知機能テスト」だが?

認知症が疑われる人に対する意思能力®の鑑定には「長谷川式認知機能テスト」を用います。正式名称は「改定長谷川式簡易知能評価スケール」といい、一般的には略されて「長谷川式」と呼ばれ、認知症のテストとして広く用いられています。その理由は、非常に簡便で使いやすいからでしょう。

ただ、このテストには落とし穴があり、明らかに認知症の症状が出ている人でも点数が高くなるケースがあります。しかし、簡易すぎるが故に、これに気づかない医師が多いことも知られていない事実です。その場合は、ほかの方法も用いて総合的に判断します。「長谷川式」のテストは下記の図表のようになっています。

[図表]改訂長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)

一般に公開されているので、事前に練習することも可能ですが、認知症の人は短期記憶に障害があり、症状が進むと数分前に見聞きしたことも忘れてしまいます。したがって、事前に準備してもまったく効き目がありませんが、ただ、もともと知能が非常に高い人や、以前に就(つ)いていた職業によっては、認知症になってからでも高得点を取るケースがあり、ここが「落とし穴」になります。

[事例2]生前贈与の意思能力が無効として訴えられた79歳女性

この女性の場合、介護施設での記録では「全介助」で、食事や排せつなど何をするにも介護職員の助けが必要な状態でした。ほかの利用者とのコミュニケーションがなく、かなり重症の認知症入居者とみなされていました。

しかし、生前贈与をする数か月前に施行された長谷川式のテストの総合点は30点満点中の15点でした。贈与を受けた側は、「だから贈与は有効だ」と主張し、ほかの家族が弁護士を通じてメディカルリサーチに意思能力®鑑定の依頼をしてきました。

弊社の鑑定医がテストの結果を詳細に精査してみたところ、第1項目の年齢の質問では、「74歳かな?」と答えていました。2歳までの誤差は正解とみなします。第2項目の「今日は何年の何月何日ですか、何曜日ですか」の問いに対しては、無回答でした。第3項目は、「私たちが今いるところはどこですか?」という、場所についての見当識の確認です。女性からの自発的な答えがなかったので、医師が「家ですか? 病院ですか? 施設ですか?」というヒントを出し、やっと「施設」という答えが出たようでした。

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