介護・医療関連ニュース

認知症とともに生きる希望を示す女性の人生

認知症になったら、人として様々なことが制限され、いろいろとオシマイになる。それは思い込みに過ぎないのだと、若年性アルツハイマーの女性との対談を経て知った諏訪中央病院名誉院長の鎌田實医師が、認知症を受け止めて活かす社会について考えた。

 * * *
「ぼくのこと、覚えてる?」
「覚えているわよ」

 そんな軽い認知症ジョークに、会場はドッと沸いた。

 対談の相手は、若年性アルツハイマー型認知症の山田真由美さん。先月、開催された「介護の日イベント」(がんばらない介護生活を考える会主催)は、「人生を豊かにする日常の小さな挑戦とは?」と題して、認知症当事者からどんな挑戦の日々を生きているのか話を聞いた。

 山田さんが、若年性アルツハイマー型認知症と診断されたのは、7年前の51歳のとき。当時、給食の調理員として働いていた。あるときから、食材の数を数えるなどの作業が難しくなった。本当はもっと働いていたいと思ったが、居づらくなって退職した。

 しかし、この決断について、今なら違った考えをもっていると山田さんは言う。

「認知症であることをきちんと説明して、周りに応援を求めればよかった。ほんのちょっと周りが応援してくれたら、働き続けることができたと思う」

 その後、家に閉じこもった山田さん。家の中は暗くなり、一緒に暮らしている娘さんを困惑させる日々が続いた。そんな山田さんが変わるきっかけとなったのは、ある出来事だった。

 近所のスーパーで買い物に手間取っていたとき、店員に声をかけられた。思い切って、自分が認知症であることを伝えると、店員は欲しい商品をそろえてくれるなど、快く手助けしてくれた。このときの体験から、山田さんは認知症であることを隠さないことが大事と思った。

「周囲に認知症であることを隠して、閉じこもることがいちばんいけない」

 認知症の症状は少しずつ進んだ。山田さんの場合、人の顔や名前は比較的覚えていられるが、空間認知機能が著しく低下した。空間の感覚が低下すると、服を着るのも難しくなる。

1/2ページ