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新たな遠隔診療の形がここにあった-「在宅移行ケア」での実践例も(医療介護CBニュース)

インターネットなどを使った遠隔診療の可能性を感じ取り、医療現場では具体的な取り組みが始まっている。無診察治療を禁止した医師法20条や診療報酬上のルールなどの現行制度の規制をにらみながら、そろりとした動きではあるが、新たな遠隔診療の形も見え始めている。【君塚靖】

■メディプラット「first call」で一般診療も視野に

 医師専用コミュニティーサイト「MedPeer」を運営するメドピア(東京都渋谷区)が、遠隔医療事業への参入を決めた。オンライン医療相談プラットフォーム「first call」を手掛けるメディプラット(文京区)の株式を取得し、完全子会社化する。

 「first call」は今年2月末にサービスを開始。花粉症や関節痛などの疾患に特化して、医師がネットを通じて利用者の相談に応じていた。夏からは、企業の福利厚生としてサービスを拡大するほか、一般診療での応用も視野に入れている。

 メディプラットの林光洋代表取締役CEOは、「これまで厚生労働省などと相談しながら、ルールにのっとって準備をして、実証実験のような位置付けで運用してきました。夏以降は、企業や自治体などの組織に『first call』の導入を働き掛けていきます」と意欲的だ。

 「first call」では、事前に登録した医師が相談者への対応をしている。メディプラットがメドピアと組んだのは、登録医師を増やしたいという背景がある。メディプラットは、「スキマ時間でTV電話による医療相談を」とのキャッチコピーを打ち出し、医師に対して新たな働き方として「first call」への登録を呼び掛けている。「お子さんがいて育児休暇に入っている女性医師などからの問い合わせもある」(林CEO)という。

 メディプラットは将来的に「first call」を、訪問診療や訪問看護の補完ツールにすることも検討している。登録医師の一人である池之端プライマリクリニック(文京区)の眞鍋歩院長は、「first call」の在宅での応用について、「看護師さんに、患者宅でイレギュラーな対応が必要になった場合、現状では医師への問い合わせ方法は電話しかありません。例えばタブレット端末を持って、連絡を取ることができれば、医師は患者さんの状態を視認し、多くの情報をとらえることができます」と話している。

■病院の主治医と在宅医が連携し、緊急入院の減少目指す

 東大医科学研究所附属病院(港区)緩和医療科の岩瀬哲医師は、産学共同で遠隔診療を「在宅移行ケア」(Transitional Care)に導入する研究に取り組んでいる。この研究の最終目的は、在宅のがん患者の急性増悪による緊急入院を少なくすることだ。すでに効果測定を開始している。

 岩瀬医師には、患者の緊急入院は「医師の敗北」で、医師が患者の状態の変化を予測して、緊急入院ではなく予定入院に変えることができれば、患者のQOL(生活の質)向上につながるとの信念がある。

 この研究は、入院時に主治医だった病院の医師が、遠隔診療をツールにして、在宅医や看護師などと連携するものだ。タブレット端末を使って、患者の状態を把握し、診療計画を練り直したりする。

 遠隔診療の欠点としては、身体所見を把握するための、▽触診(浮腫、腫瘤、腹水、圧痛など)▽打診(胸水、肺浮腫、心肥大など)▽聴診(呼吸音、ラ音、心雑音)ーなどが困難だと指摘されているが、岩瀬医師は、在宅医や看護師などと連携することで、欠点ではなくなると話している。

 実際の運用としては、在宅医が訪問診療する際に専門的な判断が必要になった場合、入院していた病院の主治医に、タブレット端末を通じて意見を求めることになる。

 岩瀬医師の研究に在宅医として参加している医療法人社団悠翔会在宅クリニック早稲田(新宿区)の細田俊樹医師は、タブレット端末によるテレビ会議で、在宅のがん患者と病院の医師の三者でやりとりするメリットを、このように話す。

 「病院での主治医が継続して診ていることが分かり、患者さんは療養に専念できます。最近、担当した患者さんは、ずっと自宅のベッドの上にタブレット端末を置いていました。それにより、かなり不安が解消されていたのだと思います。私としても、病院の医師から疼痛管理やQOLを高めるための痛みや倦怠感の取り方などについての助言を受けられたので助かりました。何より、24時間365日、バックベッドがあるという安心感は大きいです」

 この遠隔診療を「在宅移行ケア」に導入する研究では、細田医師が、患者のベッドサイドで診療をしながら、身体所見、血圧などのバイタルのほか、患者の痛みへの訴えなどの状況を専門的な観点で分析し、テレビ会議で病院の医師に伝えることで、遠隔診療の欠点を補っている。

 一方、細田医師は、患者が在宅で療養する場面では、訪問看護師やケアマネジャーなどがかかわっているため、三者のやりとりを関係者全員で共有できる仕組みも大事になると指摘する。その上で、「病棟ならば、患者さんの情報は共有しやすいのですが、在宅ではさまざまな人が、違うタイミングで患者さん宅に出入りしたりします。診療計画の変更といった重要事項などを、どのように共有するかが課題になってきます」と話している。

■遠隔診療のルールは「健全な成長が大前提」

 日本遠隔医療学会の酒巻哲夫副会長(高崎市医師会看護専門学校副校長)は、最近の遠隔診療をめぐる医療現場の動きを評価する一方で、懸念も示している。

 酒巻副会長は、「便利になるから、何でもやっていいということではありません。対面診療ができる条件は常に確保し、できる限り、初診は対面にしていただきたいです。学会ガイドラインでは、初診対面を推奨しています。対面で患者の身体状態などを把握することができますし、別の疾患が見つかるかもしれません。処方せんに関しては、原則的に患者本人に届く仕組みを守っていただきたいです。これは医療安全や不正防止の観点などから重要なことです」と述べている。

 酒巻副会長は、NPO法人日本遠隔医療協会の理事長として、遠隔診療の普及と共に、遠隔診療を始める医師などにアドバイスをしたりするほか、研究活動にも取り組んでいる。同協会は、日本遠隔医療学会と遠隔診療の普及に向けて、政府などに対して制度見直しの要請を続けていく方針だ。

 これについて酒巻副会長は、「遠隔診療の普及につれて、制度や診療報酬のルールの見直しが必要になるかもしれません。しかし、これは遠隔診療の健全な成長が大前提です。医療の質向上などの効果測定が必要で、科学的根拠(エビデンス)に基づいて制度やルールの改正を求めていきます」と強調している。