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糖尿病ワースト県・香川 小学生から血液検査で効果は(産経新聞)

「うどん県」で売り出し中の香川は、一方で「糖尿病ワースト県」という不名誉な顔もある。うどんの摂取量の多さが関係するかどうかは不明だが、県は「汚名返上」のため、子供のころから正しい生活習慣を身につけ糖尿病を予防しようと、小学4年生を対象に全県的な血液検査や生活習慣病予防健診を行っている。昨年度の検査では脂質異常など主要3項目が初めて改善したが、検査結果を生かした学校・家庭での指導や子供への意識づけは進んでいるとは言えず、試行錯誤が続く。

■ワースト脱出事業

 厚労省の調査によると、香川県は平成20年度に人口10万人当たりの糖尿病の患者数を示す受療率が全国1位、25年度には死亡率が2位になるなど、「糖尿病ワースト上位」が続いている。その要因の一つに讃岐のソウルフード「うどん」を上げる医療関係者もいる。うどんを多く食べることで糖分摂取が増え、血糖値を上げるとの指摘だ。

 ただ糖尿病は肥満や食べ過ぎ、運動不足などが主な原因とされており、普段からの生活習慣に起因するところも大きいとみられ、うどんとの因果関係ははっきりしない。

 そこで県は24年度からワースト脱出を目指す事業を開始。糖尿病を防ぐには子供の頃から取り組みが必要として、各市町に費用の一部を助成し、小学4年生を対象に血液検査や小児生活習慣病予防健診を行っている。子供の生活習慣病の実態を把握するとともに、今後の改善策や予防策を検討するのが狙いだ。

■1人の医師が提唱した血液検査

 検査が始まったのは、同県三木町の医師、松原奎一(けいいち)さんの活動がきっかけだった。昭和52年に地元中学校の校医になった松原さんは、多くの生徒と接する中で、肥満傾向の子供の増加や病院に来院する子供の血液に異常値が多いことに気づいた。

 学校での血液検査の実施を教育委員会などに申し出たが、当時は取り合ってもらえなかった。そこで62年から1年生300人に対して自費で検査を開始。その後、町教委が費用を負担するようになり、県内の主要市の高松市や善通寺市、さぬき市など他の自治体でも小学生を対象に血液検査を行うなど、取り組みは少しずつ広まっていった。

 平成24年度には県の事業として検査は小学4年生が対象となり、初年度は全17市町のうち12市町で、翌年度からは16市町で実施。29年度は16市町の小学4年生計7647人が対象になった(東かがわ市のみ市独自で小学5年生を対象に実施)。血液検査が県内全域で行われるのは全国でも珍しいという。

■数値改善の一方でハイリスクの子供も一定割合

 数値に異常が見られた児童には、学校側は校医や養護教諭、栄養教諭を通じ本人と保護者に栄養指導を行ったり、かかりつけ医への受診を促したりする保健指導を実施。早期発見、早期介入でリスクを減らすことを目指している。個別の検査結果は各保護者に送付している。

 例えば綾川町では、異常値が見られた児童に声をかけ、運動習慣をつけるため体操教室「じゃんぐるくらぶ」でダンスや縄跳びなどに取り組んでもらっている。児童からは「運動が好きになった」「スポーツに取り組むきっかけになった」といった声が多く聞かれるという。

 今年9月に県が公表した29年度の結果によると、血液検査で脂質異常、2型糖尿病を発症するリスク、脂肪肝の主要3項目全てが前年より改善した。

 一方、肝機能異常は前年を上回った。さらに脂質異常、2型糖尿病を発症するリスクのある子供の割合、身長・体重から判定する肥満傾向の子供の割合は過去5年間で大きな変動はなく、毎年1割程度見られる状態が続くなど改善の余地はまだ残っている。

 検査結果をもとに健康に関する授業を行っている小学校は、県内約160校中4割にとどまる。また検査結果が届いても保護者だけしか目を通さないケースも多く、県は検査を生かした学校での健康指導や家庭での話し合い、子供への意識づけが不足しているとみる。

 「子供には針を刺した痛さしか残らない。何のために検査するのかを、きちんと教えないと将来の生活習慣病の発症予防にはつながらない」と県健康福祉総務課の担当者はいう。

■健診を健康教育の教材に

 県は当初から、医師や栄養士、保健師らを学校に派遣する出前授業を実施してきたが、毎年全学校を回るには時間も人手も足りない。そこで29年度に、出前授業で伝えてきた内容を凝縮した指導用のDVDとリーフレットを作成。専門職員でなくても、またホームルームなどの短時間でも、健診の意義や正しい生活習慣の大切さなどを教えられるようにした。

 20年度から始まった40歳~74歳を対象にした大人の生活習慣病予防のための特定健診の受診率についても、香川県は全国平均に達していない。「自分は大丈夫」「時間がない」と健診に行かない人が多いという。そんな姿を子供たちは見ているのだろうか。

 県健康福祉総務課は「熱や痛みなどの症状がなくても、太っていなくても、血液検査で自分の体の状態が分かる。健診の大切さを子供たちに理解してもらうとともに、健康について考えるきっかけにしてほしい」と訴えている。