介護・医療関連ニュース

「今よりちょっとだけ」健康的な食生活を!(Wedge)

健康情報を求めるようになったのは 「つい最近」のこと

 現代では、老若・男女を問わず、多くの日本人がいわゆる「健康情報」を求めている。それはなぜかというと、健康的な生活習慣(主として食習慣)を身につければ、健康で長生きができると信じているからだ。たしかに、確率的にはこのことは当たっている。

 しかし、このこと--生活習慣の善し悪しによって健康で長生きができること--がわかってきたのは、実は「つい最近」のことである。たった30年か40年くらい前からだ。それまでは、食生活で人の健康や寿命が左右されると考える人はそれほど多くはなかった。健康や寿命を左右するのは、ひとえに医療の力であると、多くの人が考えていた。

 半世紀ほど前まで、日本人の死因の第1位は結核や肺炎などの感染症だった。日本人の疾病構造が変わり、今では多くの日本人が糖尿病は高血圧症や脂質異常症など、いわゆる生活習慣病を主原因とする脳卒中や心疾患によって、死に至るようになった。ガンや認知症でさえ、生活習慣が深く関わっている。つまり、生活習慣を改善することによって、これらの致命的な病気になるリスクを下げ、健康で長生きできるらしいということが明らかになってきたのだ。

 それ以来、日本(に限らず先進国)の多くの人が健康情報・食情報を追い求めるようになったのだ。かつては、著名な学者や医師の経験を頼りに、健康や長寿の道を探っていた(今でもそれに頼る人はものすごく多いのだが)。最近になってようやく、個人の体験や推測に基づくのではなく、きわめて多くの根拠ある科学的データ(エビデンスという)に基づいた食事法や生活習慣が効果的であると気づいたのである。

一般人にはハードルの高い 「食事摂取基準」や「食事バランスガイド」

 ここでは、主として、ビジネスパーソンを念頭に、健康・長寿に役立つ情報を提供していきたい。とはいっても、対象がビジネスパーソンだろうが、成長期の児童・生徒であろうが、中高年であろうが、お年寄りであろうが、健康にいい食習慣の基本に大きな違いはない。一口でいえば「バランスよく、適量」を食べればいいのだ。しごく単純である。ただし、単純ではあってもけっして簡単ではない。

 エビデンスから導かれた理論が明らかになってはいても実践が伴わないからだ。私たち日本人にとって、「何をどれだけ食べれば健康で長生きできるか」は相当にたしかな情報によってすでに明らかになっている。その最新情報は『日本人の食事摂取基準2015』(※1)という形で提供されている。時間と興味のある人は一度見ていただきたい。かなり詳細な情報が、きわめて確かな根拠に基づいて、明らかにされている。

 が、その情報は「料理」ではなく「食材」でもなく「栄養素」という形で提供されている。そのため、これを理解できる人はほとんどいないといってよいだろう。たとえ管理栄養士や医師であっても、勉強不足の人では「手に負えない」だろうと推測する。もちろん、素人には「何のこっちゃわからん」というシロモノだ。「たんぱく質60グラム」といわれてもわかる人はほとんどいないだろう。

 現在、これを実際に役立てている人といえば、たとえば学校給食や病院給食の献立を考えている管理栄養士、あるいは糖尿病や高血圧症の患者に食事指導をする専門医くらいではなかろうか。

 これではいけないと(思ったかどうか定かではないが)食事摂取基準を「料理段階」にまで落とし込んだ「例」を、2005年、厚生労働省と農林水産省が(文部科学省の協力も得て)作成した。それがコマ型の『食事バランスガイド』(※2)だ。このイラストには「一日に何をどれだけ食べればいいか」が「料理」で示されている。食事摂取基準よりもはるかに具体的になってはいるが、使いこなすのは、やはり、難しい。「何を=質」はかろうじて理解できても、「どれだけ=量」がわかりづらい。「食パン1枚」や「ロールパン2個」などはわかりやすいかもしれないが、「野菜サラダ」や「野菜の煮物」をどれぐらいの量食べればよいのかは、このイラストからはよくわからないだろう。

 小中学校の食育授業などで、九九(くく)のように覚え込ませてしまうか、「守らないと致命的な病気になってしまいますよ」と脅された中高年が必死で覚えるか、しか身につかないのではなかろうか。日常業務に忙しいビジネスパーソンには、これとてハードルが高い。

次ページは:一日に三〇の食材を食べる健康法を勧める