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料理を通して「生活の質」向上 介護予防、認知機能を改善(産経新聞)
食材を切ったり盛り付けたり、それを一緒に食べたりすることが、介護予防や認知機能改善などに役立つとして注目されている。料理体験に特化した介護施設もでき、認知症やまひなどの障害があっても料理を通して達成感が得られると好評だ。(平沢裕子)
◆ハンバーガーに挑戦
「カップの線までキャベツを入れてください」
3月下旬、東京都目黒区のデイサービス施設「なないろクッキングスタジオ」。専属シェフの呼び掛けに、エプロン姿の参加者は「これぐらいかな」と、千切りにしたキャベツをプラスチックカップの中に入れ始めた。
同施設が「フレッシュネスバーガー」を展開するフレッシュネス(中央区)と共同で開催したイベントで、通所者12人が、ハンバーガーやサラダ、野菜スープなど5種類の料理に挑戦した。パンを並べたり、野菜を切ったり、肉を焼いたり、それぞれが「できること」を担当し、完成した料理をみんなで食べた。要介護1の石井喜代子さん(86)は、「孫にハンバーガーを買ってあげたことはあるけど、作るのも食べるのも初めて。一度食べてみたかったの」とうれしそうに話した。
同施設は、全国で約300の高齢者施設を展開する「ユニマット リタイアメント・コミュニティ」(港区)が昨年7月に開設。他施設で輪投げや折り紙などのレクリエーションに比べ、お菓子作りの人気が高かったことから、料理作りに特化した体験型のデイサービス施設とした。
主に要介護1~5の認定者が対象で、午前はランチ、午後はスイーツや夕食を作る。開発本部の神永美佐子さんは「家では料理をしない通所者がほとんどだが、ここでは自分で作って食べることを楽しんでいる。切ったり火を使ったりする料理は頭を使う作業だけに、脳の活性化にもつながっているのでは」と話す。
◆食べる楽しみも
「つだまちキッチン」(徳島市)は、料理を通して楽しく訓練するデイサービス施設として昨年5月に開設。要介護の高齢者に楽しんでもらうだけでなく、料理をすることで体の機能がどれだけ向上するのか、評価や分析も行っている。
運営する社会福祉法人「あさがお福祉会」法人統括施設長の保岡伸聡さんは、「料理ができることが自信につながり、見違えるように元気になる高齢者は多い。将来的には併設するカフェの食事作りを手伝ってもらうなど就労支援にもつなげたい」と話す。
高齢者施設での料理活動は「料理療法」と呼ばれ、認知症の行動・心理症状の緩和や生活の質(QOL)を高める効果が期待されている。同療法について研究している京都教育大の湯川夏子准教授(食生活学)は、「食事作りは、完成品が目に見えるため達成感が得られやすく、何より食べる楽しみがある。とくに施設で仲間と一緒に料理を作り、食べることは、高齢者にとって大きな喜びにもなっている」と指摘する。
湯川准教授によると、食事作りは日常生活の一部だが、同居の家族らが認知症やまひがあるなど介護が必要な高齢者に対し、「もう料理はしなくていいよ」と台所から遠ざけてしまうことも少なくない。しかし、要介護であっても、サポートがあれば料理ができる人は多い。家庭でも、豆の筋取りや大根おろし、ゴマをするなど可能な範囲で役割を持たせることが大切という。
湯川准教授は「料理をすることにはさまざまな効用がある。家庭や施設で広く取り組んでほしい」と話している。