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厄介な高齢者の流行性疾患、体の不調を伝えるのが困難に

認知症の母(84才)を介護するN記者(55才)。高齢者は自分で自分の体の具合を察知しにくい。インフルエンザが猛威をふるう今、その問題を強く感じたという。

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「もしもしNちゃん、みんな元気? こっちも元気よ!」

 母から、機嫌のよい口調で電話がかかってきた。この年末年始に家族で雪の東北に出かけ、無事に帰京してから数日後のこと。雪国に比べれば東京は寒さも穏やかだが、なんと母は鼻声だ!

 風邪くらいでは学校も仕事も休ませてもらえなかった丈夫な家族の中で育った私も、年を重ねた母の些細な風邪の兆候には敏感になった。高齢者にとってはまさに“風邪は万病のもと”と、母のかかりつけ医や取材で話を伺う医師たちが声を揃えるからだ。

 しかもこの正月明けからインフルエンザが爆発的に大流行。東京都内では1月2週目に流行警報基準を超えたとのニュースが飛び込んできて警戒していたところだった。

「ママ、鼻声じゃない! 風邪ひいたの? せきは出る? のど痛くない? 熱は測った?」

 私は矢継ぎ早にまくしたてた。認知症の人にやってはいけないことだが、案の定、母は混乱。とにかく私に同調するようにオロオロ答えた。

「のど? イガイガする気がする。体温計? どこにあるかしら、ちょっと待って」と受話器を置いて、部屋の中を探し始めた。「しまった」と、私が思ったときにはもう遅い。

 電話の向こうでごそごそ探す音がして、しばらくすると母の鼻歌が始まり、トイレを開ける音がした。私と電話していたことは、もうすっかり忘れてしまったのだ。

「風邪か、もしかしたらインフルエンザかも」と考えた。

 インフルエンザワクチンは例年通り昨年秋に接種。でも、“絶対に感染しない保証はない”という事実が、不安を増幅する。市販薬も診断前に安易に使うのは怖い。もうこれは病院に連れて行くしかない。

 マスクやマフラーで少々大げさに防寒したが、外に出ると思いのほか寒く、母を連れ出したことが果たして正解だったのか、不安になってきた。

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