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施設の父さんが「家に帰りたい」と言わなくなったのは「ほめごろし」効果!?…認知症介護あるある
岡崎杏里 認知症介護あるある~岡崎家の場合~
老人保健施設(老健)に入所した父さんが「家に帰りたい!」と訴え続け、家族としては胸が痛む日々でした。知人の助言などから気持ちを切り替え、「父さんが老健で快適に過ごせるよう、スタッフに相談して、環境改善の道を考えよう」と意気込んで面会に行くと、なんと父さんは、「家に帰りたい!」という言葉を全く口にしなくなっていたのです(謎)……。あんなに思い悩んだ娘は、“ズコーッ”と、なってしまいました。
認知症ゆえ「家に帰りたい!」という思いを忘れてしまったのか。それとも、認知症の父さんなりに、思い詰めた顔で面会に訪れる娘を心配してのことなのか。本当の理由は本人にしかわかりませんが、少しホッとしました。得意のぬりえで心が安定
この父さんの心境の変化に、一つ思い当たることがあります。
実は、意外に絵心のある父さん。施設のスタッフが用意してくれたたくさんのぬりえを朝から晩までせっせと色鉛筆で塗っています。
認知症が進み、最近は文字を書くのも一苦労なのですが、自ら吹き出しを作りセリフを書き加えたり、夕焼けの背景にはたくさんの色を使ってグラデーションを付けたり、どれもなかなかのできばえなのです。父さんの力作を、スタッフはもちろん、ほかの入居者さんも口々に褒めてくれています。
人に褒められるということは、認知症の進んだ人にとっても、大きな喜びとなるのでしょう。施設で生活することになり、急な環境の変化に不安な思いを抱いていた父さんの心を安定させてくれたのかもしれません。
私も面会に行くたびに、いつもの10倍くらい感情を込めて、「すご~く、上手だね!」と褒めちぎります。すると、あまり表情がなくなった父さんの目じりが下がることが、娘としても喜びになっています。5歳児には渋すぎた?
みんなに褒められて気をよくした父さんは、私といつも一緒に面会に行く孫のたー君にも「どうだ!」と、作品を披露します。
ところが、空気を読まない5歳児は、認知症のじいちゃんにも容赦ありません。「これ、何の絵なの?」と、褒めるどころか困った顔をして首をかしげています。
老健が用意してくれたぬりえは高齢者向けなので、「干し柿を作るお母さん」「広場で紙芝居を楽しむ子どもたち」など、平成生まれのたー君の知らない、日本の懐かしの風景ばかり。
自信にあふれていた父さんの顔が曇ります。「黄金バットの紙芝居、知らないのか?」と言っても、たー君は「それ、なあに~?」と、超ドライな反応。しばらく2人はかみ合わない会話を続けていました。
新たな問題が発生です。前と比べれば、いたって平和な悩みではありますが……。次回、面会に行くときは、たー君にもなじみ深い、イマドキの戦隊ものや人気のキャラクターのぬりえを購入して持っていこうと思っています。1/2ページ