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「認知症になる前に、好きな音楽とその理由をメモに残そう」専門医が大事にしていること

英国で実践されているパーソン・センタード・ケア(本人を中心に考えた認知症ケア)を、来日した認知症専門精神科医のヒューゴ・デウァール博士に聞きます。目の前の認知症の人と、心と心のつながりを築くために、まるで探偵のような調査もするそうです。(聞き手・なかまぁる編集長 冨岡史穂)

冨岡 パーソン・センタード・ケア(以下、PCC)という概念を、介護の専門職ではない人、たとえば認知症の家族がいる人たちでも実践できるヒントはありますか?

デ・ウァール 決まったやり方があるわけではないので、こんな感じがいいですよぐらいのことは言えますが、具体的なアドバイスは難しいですね。

ただ、私が取材を受けて出演したドキュメンタリー映画「毎日がアルツハイマー」の関口祐加監督(注)は参考になるかもしれません。そもそも彼女は、PCCの概念を全く知らずして、感覚的にそれを実践した人だと思います。なぜ彼女にできたのかというと、認知症の本人(関口監督の場合は母親)を理解するということに行き着きます。その人の人生、感じ方、考え方をそのまま理解することは、まさにパーソン・センタード・ケアですから。

認知症の母すら笑わせる笑いのセンス

デ・ウァール 関口監督は本当にユーモアのある女性で、認知症になった実の母すら笑わせてしまうという、素晴らしい能力を持った人なんです。もちろん彼女はPCCのトレーニングを受けてはいません。

若い頃は、それほど良好な母子関係ではなかったとも聞いていますが、そういう時期があったとしても、今の状況からしっかり笑いを見出だせるところは、すごい。やはり彼女のパーソナリティに大きく依存しているところがあると思います。とても前向きで知的で、そしてちょっとイタズラ心もあったりする。それから行動的です。

不安、懐疑的、悲観的にならないように

デ・ウァール 一方で、何にでも不安を感じる人。世の中に懐疑的で、悲観的な人。何でも問題視してしまう、そういう人たちには、なかなかPCCのようなケア実践は難しいかもしれません。もちろんガイダンスはできるのですが、最終的にその人がそれを行動に移すかというと、ちょっと分かりません。というのも、こういう指向の人はたとえば、転んだら起きあがらせるというような決まり切った解決策を求めがちです。でも、認知症の人たちへのケアは、そうはいかない。

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