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【デキる人の健康学】肥満と脳白質容積との関連性 高齢期の認知症の発症リスクも(産経新聞)
脳の白質は脳の各領域を接続する組織で領域間の情報伝達を可能にしている。一つの神経細胞は大脳皮質内に局在する多数の神経細胞と神経回路を形成することにより複雑な認知機能を維持していることが知られている。
神経細胞間のコミュニケーションは軸索と呼ばれる神経線維を介して行われるが、白質ではその軸索が束になって存在している。50歳を過ぎてMRI(磁気共鳴画像)を撮影すると、白質に病変が観察されることがある。
この白質病変は脳内の血管の動脈硬化に伴う虚血性病変と考えられているが、白質病変の数が加齢とともに増加すると脳血管性認知症が発症するとされる。
これまでの疫学研究で30歳代で肥満と診断された人は肥満でない人に比べ認知症の発症リスクが3.5倍になることが報告されていたが、英国ケンブリッジ大学医学部精神科のリサ・ロナン博士らの研究チームは中年以降の肥満者の白質の容積が非肥満者の白質容積より著しく小さいことを見出した。
研究チームは20-87歳の英国人成人527人を対象に肥満とMRI画像から計算された白質容積との関連性を検討した。ロナン博士らが対象群を過体重群とスリム群に分けると、両群の白質容積に著しい差異が検出された。
さらに、白質容積を年齢別に算出すると50代の過体重群の白質容積は60代のスリム群の白質容積にほぼ等しいことが分かった。
同時に測定した大脳皮質の厚みや表面積には両群間で差異を検出できなかったことから、肥満は神経細胞そのものではなく血管病変を介して認知機能に影響を与えているとロナン博士は考察する。
これまで中年期の肥満は糖尿病や心筋梗塞、がんなどの生活習慣病との関連性が重要視されてきたが、高齢期の認知症の発症リスクや認知機能も考慮して管理する必要があるだろう。
■白澤卓二(しらさわ・たくじ) 1958年神奈川県生まれ。1982年千葉大学医学部卒業後、呼吸器内科に入局。1990年同大大学院医学研究科博士課程修了、医学博士。1990年より2007年まで東京都老人総合研究所病理部門研究員、同神経生理部門室長、分子老化研究グループリーダー、老化ゲノムバイオマーカー研究チームリーダー。2007年より2015年まで順天堂大学大学院医学研究科加齢制御医学講座教授。2015年より白澤抗加齢医学研究所所長。日本テレビ系「世界一受けたい授業」など多数の番組に出演中。著書は「100歳までボケない101の方法」など300冊を超える。