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【デキる人の健康学】運動すると認知機能が向上する理由 脳に達したケトン体の作用(産経新聞)
先週のコラムで学習後4時間で運動すると記憶がより効率的に固定化するという話題を紹介した。身体活動量の高い高齢者の認知機能が保たれていることから運動と認知機能の関連性は古くから知られている。「最強の脳トレはウオーキング」と主張する研究者もいるほどだ。
しかし、定期的な運動によって認知機能が保たれるメカニズムに関しては必ずしも詳細には理解されていなかった。ニューヨーク大学ランゴーニ医療センターのサマ・スレイマン博士らの研究グループは運動によって脳の中で脳由来神経栄養因子(BDNF)と呼ばれるタンパク質の産生が増えることに着目した。
脳由来神経栄養因子は1980年代に発見され、その後の研究により記憶力を高めたり神経細胞を成長させる役割から、認知機能の維持や学習・記憶などのプロセスに重要な物質と考えられている。
さらに、この物質はアルツハイマー病などの認知症を発症すると脳での産生が減少すると報告されている。研究チームはマウスを回し車で30日間運動させると体脂肪が燃焼して血液中のケトン体が増えることに注目した。
ケトン体はグルコースと同様に脳のエネルギー源になることが知られていたが、定期的な運動を続けるとケトン体が脳の細胞に直接働きかけ、脳由来神経栄養因子の遺伝子発現を誘導することを研究チームは今回の実験で新たに見出したのだ。
最近、ココナッツオイルにアルツハイマー病の認知機能の改善効果があることが話題になっているが、ココナッツオイルに含まれている中鎖脂肪酸は肝臓でケトン体に変換されることが知られている。
アルツハイマー病では、脳に達したケトン体の作用で脳由来神経栄養因子の産生が増え認知機能が改善しているのではないかとスレイマン博士は考察する。高齢期に認知機能を保つためには食事のみならず定期的な運動が重要であることが再確認されたようだ。
■白澤卓二(しらさわ・たくじ) 1958年神奈川県生まれ。1982年千葉大学医学部卒業後、呼吸器内科に入局。1990年同大大学院医学研究科博士課程修了、医学博士。1990年より2007年まで東京都老人総合研究所病理部門研究員、同神経生理部門室長、分子老化研究グループリーダー、老化ゲノムバイオマーカー研究チームリーダー。2007年より2015年まで順天堂大学大学院医学研究科加齢制御医学講座教授。2015年より白澤抗加齢医学研究所所長。日本テレビ系「世界一受けたい授業」など多数の番組に出演中。著書は「100歳までボケない101の方法」など300冊を超える。