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就寝前にやってみよう!認知機能を向上させて不眠症を改善する「深呼吸」の効能
“ここ一番”の勝負の直前には深呼吸をしてみたい。そしてその場合は息をゆっくり吸うことに意識したほうがよいようだ。
鼻から息を吸い込む時に認知機能が向上する
我々は口でも呼吸できるが、どちらかと言えば鼻で呼吸するほうが自然だろう。鼻呼吸のほうが鼻毛という天然のフィルターを通してより安全に空気を体内に取り込むできることに加えて、ニオイを検知できるという我々のサバイバルに直接関わるメリットもある。
しかしながらニオイを嗅ぐのは呼吸の中でも基本的には吸い込む時にしかできない。とすれば我々の認知の過程において、息を吸い込むのと吐き出すのとに何らかの違いがあるのだろうか。
イスラエル・ワイツマン科学研究所の研究チームが2019年3月に「Nature Human Behaviour」で発表した研究では、実験を通じて我々の“吸気”と“排気”時における認知能力の違いを探っている。
30人が参加した実験では、スクリーン上に写ったシルエットかあるいは単語について、現実に存在するものであるかどうかを素早く判断してボタンを押す課題が課された。そして課題中の参加者の脳波と呼吸パターンがモニターされた。
参加者は自分の呼吸を気にすることなく課題に挑んだのだが、データを分析してみるとシルエットの課題において、息を吸い込む時に回答した場合の平均スコアは73点であった一方、息を吐き出す時に回答した平均スコアは68点に落ち込んでいたことが判明した。
しかしながら興味深いことに単語の課題では“吸気”と“排気”に成績の差は生じなかったということだ。
鼻で息を吸い込む時に我々の嗅覚は鋭くなるのだが、研究チームによれば息を吸い込むことで嗅覚だけでなく空間と視覚に関する認知能力もまた向上しているのではないかと説明している。その根拠に、吸い込む時に活発になる脳の領域が、吐き出す時には活動していなかったのである。そしてこの息を吸い込む行為は言語運用能力には影響を及ぼさないということになる。仕事でも課題でも、何か事に当たる前には鼻からゆっくり息を吸いこんでみてもよさそうだ。
意識的な呼吸で脳が“目覚める”
普段我々は呼吸を意識することはないが、ご存知のようにヨガや武術、多くのスポーツなどでは呼吸法が重要視されている。呼吸のペースを自発的に変えることができるのはおそらく人間だけではないかとも言われているようだ。
呼吸を変えることで我々の身体に実際に何らかの変化が起きているのかだろうか。米ニューヨークのファインスタイン医学研究所の研究チームが2018年11月に「Journal of Neurophysiology」で発表した研究では、自発的な呼吸が脳活動を変えていることを報告している。
研究チームはまず実験参加者が無意識の呼吸を行なっている時の脳の活動を詳しく観察した。特に何もしていない時の呼吸に加えて、モニターに円が映し出された時にボタンを押すなどの単純な課題に取り組んでいる間の呼吸と脳活動もまた観察された。これは何かに集中している時は普段よりもさらに呼吸には無頓着になると考えられるからである。
次に参加者は呼吸のペースを意識的に変えるように求められて、その間の脳活動が詳しくモニターされたのだが、呼吸を無意識に行なっている時と意識的に行なっている時とでは脳活動が大きく異なっていることが判明したのだ。意識的な呼吸は脳のさまざまな部分を活性化していると共に、無意識の呼吸での活動とも重複しているということだ。
気持ちを落ち着かせたい時には“ひと息つく”や“ひと息入れる”などの言い方があるが、そうした慣用表現はサイエンス的にも正しいことになる。
呼吸を意識的に変えることで、普段は働いていない脳の部分を“目覚めさせる”ことが出来るとすれば、確かに呼吸法を活用しない手はないということになるだろう。何らかの困難を感じたり、ここ一番の“勝負時”には意識的に呼吸を整えてみたいものである。
眠る前の呼吸法の実践で不眠症が改善
深呼吸などの呼吸法にはさまざまなメリットがあることが報告されているのだが、最新の研究によれば深呼吸の実践は不眠症の改善にも効果があることが報告されている。
2018年12月に「Front Psychiatry」で発表された研究では、リラックスを目的にした呼吸法の実践は身体のみならず脳のリラックスにも繋がることを報告している。研究チームは自律神経系への効果を目的にした深呼吸を通して、不眠症や睡眠障害の治療に役立つ可能性を指摘しているのだ。
また研究チームは夜間によく目が覚めてしまう傾向がある場合は、深呼吸をすると眠りに落ちやすくなることにも触れている。
10代を対象にしたリハビリ施設「Newport Academy」の創立者でCEOのジェイミソン・モンロー氏もまた呼吸法の実践がより深い眠りに導くものであることを明言している。
「深呼吸の実践は2つの目的があります。深呼吸は中枢神経系を落ち着かせ、心を静める瞑想として作用します。そして身体がより深い眠りに備えます」(ジェイミソン・モンロー氏)
モンロー氏は眠る直前に呼吸法のエクササイズを行なうことを推奨している。
「睡眠障害や不眠症に対処する深呼吸運動をするのに最適な時期は就寝直前です。これは脳を夜の帳に向けて鎮める方法です。慌しい生活の中で、時計が就寝時間を指していても脳は簡単に“スリープモード”に切り替わりません」(モンロー氏)
夜眠る前にシンプルな呼吸法を実践してみることで質の高い睡眠が得られることを力説するモンロー氏だが、目安としては1分間に6回から8回のゆっくりした呼吸を行なうのがよいということだ。
呼吸法についてはいろんな方法があり、いろいろ試してみて自分にあったものを選べばよいのだが、例えばボックス呼吸法(Box Breathing)ではゆっくり4つ数えながら息を吸い、次に4つ数えながら息を止め、最後に4つ数えながら息を吐くという呼吸を繰り返す。
深い眠りにも繋がるという呼吸法を日常生活の中で習慣づけることができればさまざまな健康へのメリットがありそうだ。
文/仲田しんじ