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健康診断では分からない慢性腎臓病の予防法 高血圧の人は定期的に腎機能をチェック
【「腎不全」から身を守れ】
人工透析治療中の患者に「延命中止」を選択させた医師の存在が問題になり、腎不全のつらさが改めてクローズアップされている。
自覚症状がないまま進行し、健康と命を脅かす慢性腎臓病は、国内で1330万人(推計)を超え、右肩上がりに増加している。慢性腎臓病には腎機能低下が関わる。50代より40代、60代より50代、70代より60代と少しでも早めに腎機能低下を食い止めておけば、腎臓を守ることにつながる。5回にわたって専門医に話を聞く。
腎臓は血液を濾過(ろか)して老廃物を対外に出すために、尿を作ることはご存じだろう。加えて、体内の水分調節や、塩分やカリウムなどの電解質の濃度調節、酸性物質の排泄(はいせつ)、血圧などに関係するホルモンの分泌、さらにはビタミンD3の活性化で骨代謝にも関わるなど、たくさんの働きをしている。体にとってこれだけ重要な働きをする腎臓だけに、機能が落ちれば自覚症状が現れそうなのだが、そうではないところに落とし穴がある。
「腎機能が低下して、むくみや倦怠(けんたい)感など、体の異変に気付いたときには、腎不全の一歩手前のことが多いのです。それまでは無症状のまま腎機能の低下が進むため、ある日突然、腎不全と診断されることも珍しくありません」
こう説明するのは、東京女子医科大学腎臓内科学の新田孝作教授。長年、慢性腎臓病の診断・治療・研究を行い、予防にも尽力している。
一般的に腎機能は、健康診断などで実施されている尿検査の「タンパク尿」や血液検査の「推算糸球体濾過量(eGFR)」で知ることが可能だ。無症状でも、「タンパク尿」があれば、腎機能を把握した上で対策を立てることが重要になる。ところが、それだけでは計り知れないのが慢性腎臓病の怖い面ともいえる。
「たとえば、慢性腎臓病のひとつ『腎硬化症』は、高血圧が原因で長い年月をかけて腎臓の細い血管に動脈硬化が起こり、腎臓の濾過装置ともいうべき糸球体が障害されます。ところが、腎硬化症では、腎機能の低下がかなり進むまでタンパク尿が生じにくいのです」
腎臓は、塩分やカリウムなどの調節、血圧に関わるホルモン産生などから、高血圧で腎臓がダメージを受けると血圧をさらに上昇させてしまう。高血圧→腎機能低下→高血圧の悪循環に陥るが、このとき「タンパク尿」は生じにくい。腎機能低下が進まないと、健康診断では分からないのだ。
「腎硬化症による透析治療開始の患者さんは年々増えています。一方で、原因不明の腎不全の方も増加しています。70代になって腎機能の著しい低下が判明し、その原因が分からないようなケースです。この中に、高血圧の管理が長年不十分で、腎機能が低下した人が含まれると考えられるのです」
慢性腎臓病を予防するには、塩分制限など食生活の見直しや高血圧治療薬での血圧コントロールが欠かせない。新田教授は、「高血圧の人で50代の人は、3カ月に1回は、かかりつけ医に尿検査や血液検査で腎機能を調べてもらうことがよいでしょう」と話す。自覚症状が皆無な状態で放置し、20年後に腎不全といったことがないように注意したい。(安達純子)
■慢性腎臓病の基本まとめ
□10年後を見越して早めに機能低下を止めよ
□腎臓は機能が落ちても自覚症状がない
□むくみ、倦怠感など異変は腎不全の一歩手前
□健診のタンパク尿は原因を調べることが重要
□予防に塩分制限、高血圧コントロールが不可欠