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認知症と似た「高齢発症てんかん」 どう見極める?
「てんかん」というと、「小児に起こる病気」「発作を起こすと、意識を失い全身がけいれんする」といったイメージが強いが、成人になってから発症する場合や、全身けいれんを伴わない場合もある。特に年をとってから発症する「高齢発症てんかん」は、急にボーッとした顔になったり、ふらふらと歩き回ったりすることから認知症と間違えられやすく、治療が遅れることも……。知っておきたい高齢発症てんかんの特徴と治療法を紹介する。
■てんかんは高齢者にも多い病気
てんかんは小児に特有の病気と思われがちだが、全患者数の約4割を高齢者が占めるといわれ、高齢化により、その割合は年々増加している。
全国の急性期病院からなる医療情報データベースを用いた研究によれば、てんかん患者の年齢分布は、18歳未満は17%、18歳以上65歳未満は39%、65歳以上は44%だった(図1)。
もともと、てんかんの発症は小児に多く、成人になると減少するが、加齢とともに再び増加することが知られている(図2)。
65歳以上の高齢者のてんかんには、小児期や青年期に発症して完治していない「てんかん患者の再発による高齢てんかん」と、65歳以上の高齢者になってから、初めててんかんを発症する「高齢発症てんかん」がある。
てんかんの原因は、小児期は先天性が最も多く、成人では脳腫瘍や外傷、高齢発症てんかんでは脳卒中や動脈硬化などによる脳血管障害や神経変性疾患が多くなるが、画像検査等を行っても明らかな異常が見つからない場合も少なくない。
つまり、高齢発症てんかんは、それまでてんかんとは無縁だった人でもなり得る病気というわけである。こういった症状が見られたら、てんかんの可能性もある。※赤松さんの話を基に作成(イラスト 平井さくら)
■高齢発症てんかんの特徴は?
そもそも、てんかんとはどういう病気だろうか。私たちは通常、大脳の神経細胞から発せられる電気的なシグナルによって、思い通りに手足を動かしたり、考えたりするなどの活動を行うことができる。この電気的なシグナルが何らかの原因により乱れることで、一過性のてんかん発作が起こる。てんかんは、このてんかん発作を繰り返し起こす脳の病気である。
てんかん発作というと、意識を失って全身がけいれんを起こすイメージが強いが、それは小児の場合に比較的多く見られる症状で、高齢発症てんかんでは、体の一部のみがビクンとするもの、意識がぼやけてボーっとするもの、夢遊病者のように歩き回るものなどが多く、激しい全身けいれんなど特徴的な症状が出ない場合も多いという。
こうした、高齢者に多い、けいれんなどを伴わないてんかん発作を「意識減損焦点発作」(旧名は複雑部分発作)と呼ぶ。意識減損焦点発作の多くは、側頭葉に原因がある「側頭葉てんかん」である。
「高齢発症てんかんの発作では、ボーッとして何をしていたか覚えていないときもあるため、認知症と間違われることも少なくありません」と話すのは、国際医療福祉大学医学部神経内科教授で、福岡山王病院脳神経機能センター神経内科の赤松直樹さん。
例えば、60代半ばのある女性患者の場合。職場で言われたことを忘れてしまうので、「自分は認知症になったのではないか」と思い退職して故郷に戻り、姉と同居。姉と一緒に物忘れ外来を受診した。姉によれば、週2~6回、ボーッとして意識がはっきりしない状態が1~2分続くことがあったといい、その際、手や口をもぞもぞ動かす症状があるということだった。また、本人によれば、発作が起こる前に、以前見たことのあるような風景が頭の中に10秒間くらい浮かんでくるということだった。
赤松さんは、「この患者さんは入院して脳波を検査した結果、てんかん特有の脳波が出たため、てんかんと診断しました」と話す。
てんかんの検査は、発作時の脳波を調べ、てんかん特有の脳波が出れば、てんかんと診断する。ただし、てんかん発作が起こっているときでないと異常な脳波を捉えられないため、診断は難しいという。
「認知症と診断され、長年、認知症の治療薬を処方されながらも異常行動が改善されなかった人が、てんかんの検査をしたところそのように診断され、てんかんの治療によって症状が改善した、という事例はいくつもあります」と赤松さんは話す。
また、高齢発症てんかんはてんかん以外の病気を合併している場合も多く、その場合、さらにてんかんと診断するのが難しくなると赤松さんは話す。
特に認知症と合併している場合、てんかんの症状が認知症の症状に似ているため、識別は困難となる。1/2ページ