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(135)握力 低下で病気や死亡が増加
糖尿病で通院している70代男性は、割とがっしりした体格です。若い頃から体力に自信があったそうで、健康のためにと神社の階段の上り下りを日課としています。男性が「今でも握力は先生に負けないと思うよ」と言うので、それならばと握手をしてみたら、本当にものすごい強さでした。
近年、握力が病気や寿命と関係していることが、いくつもの研究で示されるようになっています。今年5月、英国で握力と病気や死亡の関係を調べた研究結果が発表されました。40~69歳の50万人を対象に、握力の強さで4分類し、握力と総死亡や心血管疾患、呼吸器疾患、がんの発症・死亡との関係を調べています。
その結果、握力が5キログラム低下するごとに、全死亡は20%、心血管疾患による死亡は19%、呼吸器疾患による死亡は31%、がんによる死亡は17%増え、特に若い人でこの関係が強く見られました。また、筋力低下(握力が男性で26キログラム以下、女性で16キログラム以下)が明らかな人では、心血管疾患や呼吸器疾患、がんの発症率や死亡率が軒並み高くなっていました。つまり、握力は血圧に勝るとも劣らない将来の病気や死亡の指標といえる結果でした。
私たちが普段受ける健康診断では、身長・体重や血圧を測り、血液・尿などを採取して検査します。これらの検査は、生活習慣病を見つけ、将来的に脳卒中や心臓病となるのを予防することが目的です。こうした健診の項目に、今後は握力の測定が加わるかもしれません。
握力の強さは、性別や年齢、身長、四肢の筋力、栄養状態などさまざまなものと関連し、遺伝の影響も強く受けるようです。これまでの研究で、タンパク質やビタミンDなどの栄養素をしっかり含んだ健康的な食事をしている人や活動的な人は、握力が強いことが分かっています。つまり、握力を維持するには、健康的な生活習慣が大切であるといえます。
逆に握力の低下は、筋力や運動レベル、栄養状態が悪化している可能性を示唆しており、心血管疾患などの病気を発症する危険が高くなることが予想されます。
握力は、握力計があればどこでも簡単に測れます。血圧のように毎日自宅で測る必要はありませんが、健康状態の把握に有用と考えられています。握力を測ったのはだいぶ昔という人は、機会があればぜひ測ってみると良いでしょう。(しもじま内科クリニック院長 下島和弥)